よつき経済研究所

航空産業を専門に研究している経済学者の森本裕です。神戸にある甲南大学で教員をしています。このブログは火曜日と金曜日に更新しており、火曜日は「旅行に役立つ航空」について、金曜日は「経済学で身につける思考の技術」について記事を投稿します。また、大学教員ならではということで、今どきの学生気質や大学の裏事情についても不定期で発信します。

経済学に関心がある方は、ホームページ(https://yotsuki-compass.com/)にもお越しください。ツイッター(https://twitter.com/yotsuki_compass)でも最新ニュースに経済分析を加えています。

たくさん乗ると安くなる⁉
前回の記事では、遠くへ乗り継いだ方が安くなりうるという話をしました。まぁ、常識的にはたくさん乗るほどチケットは高くなるわけですが、そうではないところが航空業界の特殊なところです。


遠くまでにチケットを安く買って、経由地点から先の部分は不搭乗にするというテクニックが一部では流行っているようです。英語では”Hidden City”とも呼ばれています。(ただし、航空会社の規定に違反するため、搭乗拒否にあるリスクがある。)

今回は、このあたりの事情について経済学の理論を使いながら考えてみましょう。前回に引き続き、ヘルシンキを拠点とするフィンランド航空を例にして、「日本-フィンランド」よりも「日本-フィンランド-スペイン」の方が安くなる理由を検討します。

直行便市場は競争相手が少ない
まず、航空業界にかけられている規制について話します。国際線の運航は各国の主権にゆだねられていて、多くの場合、2国間の運航はその国の航空会社しかできないことになっています。

つまり、「日本-フィンランド」間の直行便は、日本とフィンランドの航空会社しか飛ばせないわけです。つまり、この路線を飛ばす権利があるのは、ANA・JAL・フィンランド航空の3社だけというわけです。専門的には寡占市場といいます。

したがって、便利なサービスである「直行便市場」では競争があまり起きず、価格が高止まりします。(このメカニズムは、携帯の通信料金が安くならないのと同じですね。)

もちろん、ソウル・上海・北京・ドバイ・パリ・ローマなどの諸都市で乗り継いでヘルシンキに至る「経由便市場」もありますが、これらは不便なため、十分な競争相手とは言えません。

まとめると、日本-フィンランド間では、便利なうえに競争相手が少ないので、運賃を高くすることができるのです。
日本-フィンランド
見出し
では、「日本-スペイン」はどうでしょうか?

先ほどと同様に、この路線に飛行機を飛ばせるのは、日本またはスペインの航空会社だけです。したがって、フィンランド航空はこの路線に就航することができません

なので、日本からスペインに移動する旅客を取り込みたければ、ヘルシンキを通る乗継便を提供するしかありません。乗継便は旅客にとっては不便なうえに時間もかかるので、高く売ることはできません。

さらに悪いことに、「乗継便市場」にはあらゆる航空会社が参入しています。例えば韓国の大韓航空やアシアナ航空は、「ソウル-日本」と「ソウル-スペイン」を飛ばしていますので、これらを組み合わせることで「日本-スペイン」の乗継便を提供することができます。

各国の航空会社がこのようにして「乗継便市場」には入ってきますので、競争が非常に激しくなります

したがって、旅客にとって不便なうえに競争相手が多いということで、運賃を非常に安くせざるをえなくなるわけです。
日本-スペイン
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このようにして「直行便市場」と「乗継便市場」をみてみると、たくさん乗る方が安くなる現象について理解できるかと思います。

一見不思議に見える現象も、経済学のレンズを通してみると原因がわかってきます。このあたりが経済学を勉強する面白さではないかと思っています。

どんな論文でも合格させてしまうハゲタカたち
ハゲタカジャーナルとかハゲタカ学会なるものが問題になっているようです。より堅い言い方をすると、粗悪雑誌・粗悪学会となります。

これらのハゲタカたちは、数万円の投稿代や参加費さえ払ってもらえれば、後は研究内容審査もせずに「合格」させていて、これが批判されているようです。

アカデミック外の人からしてみれば、「高い金をハゲタカに貢いでまで雑誌や学会に研究成果を出す意味はあるのか?」と感じるのではないでしょうか。

今回は大学事情に触れながら、一般向けにハゲタカ問題についてお話ししたいと思います。




ハゲタカといわれても、必要とされているから存在する
批判されようが何だろうが、需要があるからこそハゲタカビジネスが成り立ちます。では、どのような需要があるのでしょうか?

1.どうしても「成果」が欲しい
常識的に考えたとき研究成果とは、何か有用で社会の役に立つもののことを指しそうです。ところが、アカデミック界で成果というと、研究発表や論文掲載のことをいいます。

まともな学会であれば、程度が低い研究は発表させてもらえませんし、雑誌にも掲載してくれません。だからこそ、発表や掲載論文は評価されるのです。

ただし、みんながみんなレベルの高い研究をできるとは限りません。どれだけ努力をしてもいい研究ができない人もいるのです。

そういう研究者であっても成果は欲しいですから、審査をまともにすることなく合格を出してくれるハゲタカさんにお金を払ってしまいます。

2.成果がないと研究できない
かつては基礎的研究費と呼ばれる予算がたくさんありました。基礎的研究費とは、全員に対して無条件に支給される研究費のことを言います。なので、かつては研究費の獲得に困ることはあまりありませんでした。

ところが、近年は「成果の見込めないところには研究費をださない」という方針に変わったため、実績がない研究者は予算を付けてもらえなくなってしまいました。(ちなみに、選抜をして優秀な人にだけ支給される研究費のことを、競争的資金といいます。)

そうすると、「成果がない→研究費がない→成果がない」のループにはまってしまいます。こうなってはどうしようもないので、ハゲタカさんにお金を払って、成果を買う必要が出てくるのです。

3.成果がないと就職できない
これもまた近年深刻になっているポスドク・オーバードクター問題と関係しますが、成果が上がっていない人は正規雇用のポジションを得られなくなりました。就活では、研究成果を厳しくみられる時代になったのです。

若手の研究者は本来、長期的な視点から腰を据えて研究に励むべきですが、自分の将来がかかっているので悠長なことを言っていられません。これまた、ハゲタカさんにお金を出して成果を作らなければなりません。

ハゲタカ対策は、しっかりと成果をチェックすること
以上の3つの理由があって、コストはかかるけれどもハゲタカも必要とされています。ハゲタカ批判をしても、需要がある以上はなくなることはないでしょう。

このことの根本原因は、「研究の中身を見られないこと」にあります。研究費の配分にしても就活にしても、表面的に論文があることだけをチェックして、中身を読まないのが良くないのです。

粗悪なハゲタカを駆逐するためには、アカデミック界にいるわれわれが成果についてしっかりと考える必要があるのだと身に染みて反省するところです。

遠くに行く方が安い?
普通、乗り物に乗ると遠くに行くほど運賃は高くなるはずです。ところが、飛行機の場合は遠くに行った方がなぜか安くなることがあります。

今回は、この不思議な現象について紹介したいと思います。




調べてみたら、本当だった!
まずは、次の画像を見てください。
隠された都市
大阪からの運賃をフィンランド航空で検索したときの画面です。上段は大阪-ヘルシンキ間、下段は大阪-(ヘルシンキ経由)-マドリード間の運賃です。

常識的に考えて、マドリード行きの方がたくさん飛行機に乗っているわけですから、運賃が高くなるはずです。ところが、一部の日程ではそうなっていません。

例えば、5月31日に大阪を出発して、6月8日に現地を出る日程を見てみましょう。このケースではヘルシンキ行きの運賃は131,940円ですが、マドリード行きは121,600円でした。他にも、星が付いているところはマドリード行きの方が安くなっています。

まさに、遠くへ行った方が安いのです。頭のいい人は、これを応用して旅行代を安く済ませられると思ったのではありませんか?本当はヘルシンキまで行きたいのに、マドリードまでの航空券を買えば安くなると。

でも、この方法は運賃規約で禁止されています。これも航空業界の独自ルールで、使い始めた航空券を途中で放棄することはできません。新幹線であれば途中下車できるところ、飛行機では認められていないのです。

ですので、経由地点までしか飛行機に乗らなかったら最悪の場合、帰りの飛行機に搭乗拒否されてしまうかもしれません。

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