よつき経済研究所

航空産業を専門に研究している経済学者の森本裕です。神戸にある甲南大学で教員をしています。このブログは火曜日と金曜日に更新しており、火曜日は「旅行に役立つ航空」について、金曜日は「経済学で身につける思考の技術」について記事を投稿します。また、大学教員ならではということで、今どきの学生気質や大学の裏事情についても不定期で発信します。

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ホームドアの設置費用を運賃に転嫁?
国交省は、ホームドアを設置するための運賃値上げを認める方針を示しました。

もともと国交省は、1日の利用者数が10万人以上の駅にはホームドアを設置するよう要請していました。しかし、1駅あたり数十億円にものぼる設置費用が壁となり、なかなか設置が進んでいませんでした。

鉄道会社にとってはホームドアを設置したところで乗客が増えるわけではないので、なかなか乗り気になれ慣れませんでした。(これは、満員電車問題も同様ですが。)

そこで、ホームドア設置の費用は受益者である乗客に負担してもらうように制度設計をする方針が出てきたわけです。

今回の記事では、新しい制度が実施されたときに、どの程度運賃が値上げされることになるかを検討します。



一駅当たりの費用は32億円
まず設置にかかる費用ですが、1間口あたり200万円~600万円です。費用にばらつきがあるのは、ドアの性能やホームの状況に大きく依存するためです。

ホームドアは1間口あたり500kgもの重量がありますので、これを支えられるようにホームの基礎を強化する必要があります。もともとしっかりしたホームであれば追加費用がかからないのに対して、軟弱であれば強化には大きなコストがかかります。

また、昇降式のバータイプの柵であれば費用は低廉で済みます。このように設置状況によって費用は大きく異なりますが、今回は1間口あたり400万円として試算しましょう。

ホームは10両編成対応で、1両あたり4つドアがあるとします。この場合、間口の数は1ホームあたりで40か所、上下線で80か所になります。したがって、1駅の設置費用は32億円であることがわかります。

ちなみに、JR東日本の公表資料「山手線への可動式ホーム柵の導入について」(2008年)によると、

「恵比寿駅」、「目黒駅」に可動式ホーム柵を整備するための工事費として、可動式ホーム柵の設置、ホームの構造改良等の地上工事で約30億円、定位置停止装置の設置等の車両改造工事で約20億円を見込んでいます。

となっています。2駅で50億円ですので、今回の試算で使う32億円は実際の費用と大きくは離れていないことが分かります。

費用の2/3は税負担
設置費用の負担者ですが、全額を鉄道会社が支払うわけではありません。バリアフリー事業ですので、エレベーターやスロープの設置と同様、国や自治体から補助金を受け取ることができます。
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国土交通省の資料によると、国と自治体がそれぞれ費用の1/3を負担します。ですから、鉄道会社の負担は残りの1/3だけです

このことを考慮すると、1駅あたりの費用は10.7億円になります。


中規模の駅でも利用者負担はたったの10円
さて、この10.7億円を運賃で回収するわけですが、どの程度の値上げが必要なのでしょうか?

加算運賃を永久的にとるわけにはいきませんので、10年間で回収を目指すものとします。乗降客数を10万人とすると、1年間での利用者数は3650万人、10年間では3億6500万人です。

単純に割り算をすると、1人当たり2.93円です。意外と安いですね。

乗降客数が5万人の駅であればおよそ6円、3万人であればおよそ10円です。この辺りまでであれば、安全性と定時運行の対価として負担できるのではないでしょうか?

ちなみに、乗降客数3万人というのは都心の少し外れにある駅や、郊外の中心駅が該当します。JR西日本であれば塚本(33998人)、西宮(38608人)、大津(34502人)などが3万人に近いです。

今回の試算では、利用者が少額の負担をするだけでホームの安全が確保されるようになることが分かりました。国交省には是非、新しい制度を実行に移してもらえればと思います。

トリクルダウン効果はあったのか?
規制緩和によって経済活動を活性化させようという新自由主義ですが、格差を拡大させるという批判も見られます。格差は拡大しようとも、低所得層にも恩恵があることを主張するのが「トリクルダウン理論」です。

社会全体の富の量が大きく増え、かつ格差の拡大が緩やかな場合は、格差拡大と低所得者の底上げは両立可能であると述べてきました。





理論的には富裕層から低所得者へと富がトリクルダウン(したたり落ちる)ことが分かりましたが、小泉改革は低所得者にとってプラスだったのでしょうか?厚生労働省の賃金構造基本統計調査を使って検証してみましょう。

なお今回使っているのは、不正問題で揺れる毎月勤労統計調査ではなく、賃金構造基本統計調査(こちらの信頼性も危ういですが)です。

男性は所得減 女性は所得増
まず、低所得者を所得水準が下から1/4よりも低い人と定義しましょう。この人たちの収入が自由主義的な改革によってどうなったかを検証します。

検証に使うのは、2001年と2017年の賃金構造基本統計調査です。この統計は、サンプルの事業者に対してアンケートを行い、その回答を集計したものです。

男性の第一四分位での所得の変化を見てみましょう。第一四分位という見慣れない用語が出てきましたが、第一・四分位と区切ります。下からちょうど1/4の人の所得を表しています。
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25-29歳と55歳以上は所得額に変化はありませんが、その他の年齢では軒並み所得が減っています。

低所得者とはいえども、40代であれば2001年には300万円を超える収入がありました。それが、2017年には30万円も減ってしまいました。
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女性はどうでしょうか?こちらは概ね所得水準が改善しています。2001年は中高年の所得が150万円ほどでしたが、2017年には180万円くらいに増加しました。

ちなみに、全年齢で見ると男性は236万円から229万円へと7万円の減少、女性は168万円から182万円へと14万円の増加でした。

非正規雇用の拡大と最低賃金の引き上げと
男性は非正規雇用拡大の影響を強く受けているものと考えられます。20世紀においては男性は正社員として働くのが一般的でしたが、今では生涯非正規にとどまる人もいます。

労働者派遣は1999年と2004年に対象分野が拡大され、あらゆる産業で派遣社員が一般化しました。この結果、正社員として働くことが困難になり、低所得層の賃金水準が下がりました

女性はというと、もともと非正規で働く人が多く賃金水準も高くはありませんでした。非正規雇用では最低賃金が給料の基準になることが多いですが、これが大幅に引き上げられたことが所得増につながったのでしょう。

実際、最低賃金は全国平均で2001年に662円でしたが、2017年には848円へと28%も上昇しています。

なので、女性の所得上昇は自由主義的な改革の成果というよりも、最低賃金という労働規制の強化によるものと考えられます。

トリクルダウンは起きなかった
以上をまとめると、富裕層が豊かになったところで下の方まで富がトリクルダウンすることはないようです。むしろ、非正規雇用の増加によって負け組の生活が苦しくなったのではないでしょうか?

なぜトリクルダウン効果が起きなかったかというと、結局のところ富裕層が富をため込んだからです。野村総合研究所の報告書に面白い調査がありました。
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所得層別の金融資産の額ですが、資産額1億円以上の「超富裕層」と「富裕層」の金融資産が激増しています。2000年は合わせて171兆円でしたが、2015年には262兆円になっています。

トリクルダウン効果とは富裕層の消費によって下へ下へと富が流れることを指すものですから、富をため込まれたのでは効果は全く発生しません。

競争促進政策一般についてはさらなる検討が必要ですが、労働者保護に関しては規制緩和の度が過ぎていたようです。派遣業の規制や最低賃金引き上げで、もっと労働者を保護する必要があります

今秋から深夜0時まで運用可能に
地元自治体が容認姿勢を示したことで、成田空港は運用時間を延長することが決定しました。2019年冬ダイヤから、深夜0時までの運用が可能になります。
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成田空港は内陸部に作られた空港であるため、開港以来、騒音問題と隣り合わせになっていました。主要国の第一空港は24時間運用が標準となる中、成田空港は厳しい運用制限に悩まされてきました。引き続き深夜の運用は制限されるものの、緩和されたことによって路線の誘致・拡大につながるものと考えられます。

この運用時間延長によって、どのような変化が生じるのでしょうか?その見通しについて検討してみましょう。



出国便のダイヤが改善されるか
運用延長によって変化がみられるのは、出発便がメインになると思われます。というのも、深夜0時に到着しても、そこから帰宅することもホテルへ行くことも困難だからです。

逆に出発が遅い便が設定されると、仕事終わりに出国しやすくなったり、日本での滞在時間が長くなるため、利便性が向上します。

空港までのアクセス時間と空港での待ち時間を合わせて3時間とすると、今は19時台に都心を出発しなければなりません。残業が長引いたら間に合わなくなるリスクがあります。

それが、23時台の便が利用可能になれば、都心の出発は20時台でも間に合うようになります。この1時間の差は大きいのではないでしょうか?

また、東南アジア行きの夜行便をみると、現地の到着時刻が遅くなることで利便性が向上します。24時間運用の関空の事例を見てみましょう。
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シンガポール線では、関空を23:30に出発して現地に5:30到着のスケジュールです。夜行便としては非常に優秀なダイヤと言えます。

バンコク線は現地に早朝4:00の到着ですが、3時台に着かれるよりはマシと言えます。このように、23時台の出発が可能になることで、東南アジア行きの夜行便が便利になります。

東京オリンピックに向けて、より便利な玄関口に
航空路の真下に住む人たちにとっては迷惑かと思います。とはいえ、地元自治体との合意が成立したとのことなので、来年のオリンピックに向けてより便利になってくれればいいのではないでしょうか?

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