よつき経済研究所

航空産業を専門に研究している経済学者の森本裕です。神戸にある甲南大学で教員をしています。このブログは火曜日と金曜日に更新しており、火曜日は「旅行に役立つ航空」について、金曜日は「経済学で身につける思考の技術」について記事を投稿します。また、大学教員ならではということで、今どきの学生気質や大学の裏事情についても不定期で発信します。

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2018年04月

もうすぐカジノの誕生が誕生する
IR(統合型リゾート施設)法案が閣議決定され、いよいよ日本にもカジノができる日が近づいてきました。これから数回にわたって、IRをめぐる論点を整理していきたいと思います。

3行要約
・カジノはIRのほんの一部分
・ホテルや会議場などがIRの主要部分
・政府の同意が必要なため、IR事業者は健全な企業


統合型リゾートとは?

IRはカジノの代名詞のように使われていますが、あくまでもカジノは全体の一部分にすぎません。日本のIRの整備法案では、カジノは全体の3%までしか作れないことになっています。

では、IRの全体像とはどのようなものなのでしょうか?マカオにあるスタジオシティの写真を見てみましょう。
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これがカジノの全貌なのですが、全体で425,000平方メートルの床面積があります(参考:東京のミッドランドスクエアや大阪のグランフロントが1棟で約200,000平方メートル)。このうち、カジノ部分は9,800平方メートルなので、2%強しかありません。

残りは、ホテル・ショッピングモール・遊園地・会議場・劇場といった施設です。まさに、ビジネスから娯楽まで何でもそろった「統合型」の空間だと言えます。

健全な企業がIRを経営している
次に、IRを経営している企業についてみてみましょう。カジノというとマフィアや暴力団といったアヤシイ集団が関わっているというイメージもありますが、実際には極めて健全な経営がなされています。

というのも、賭博というグレーな施設を含むだけあって当局の監視が厳しく、反社会的な集団は徹底して締め出されているのです。

IRの事業者として日本人にとってなじみがあるのは、ラスベガス・サンズでしょう。シンガポールにあるマリーナ・ベイ・サンズはビルの上に船が乗っている意匠が印象的です。
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これ以外にも、シーザーズ・エンターテイメントやMGMリゾーツ・インターナショナルといった企業がメジャーです。いずれの企業も業歴は長く、戦前から事業を行っている会社もあります。

日本でもカジノが賭博罪の適用除外にするための法律が必要なように、どの国においてもカジノを展開するには政府の同意が必要です。そのためには、世論の支持を得なければなりませんから、IR事業者は極めて倫理的な意識を高く持っています。

ギャンブル依存症への対策を徹底するなど、クリーンで由緒ある企業がIRを経営しているのです。


ESG投資とは
投資家にも倫理的な責任が求められるようになり、環境(Environment)・社会(Social)・統治(Governance)に配慮するESG投資が広まっています。これによって、環境を破壊する企業は資金調達が難しくなり、対応をせまられています。

3行要約
・投資家は社会的な責任を負う
・環境や社会に悪影響を及ぼす事業には投資できない
・企業は収益性だけでなく、社会的な貢献についても投資家にアピールが必要



資金調達をできなくなった石炭火力
2018年4月26日の日経新聞で、「日本生命保険は・・・一方で気候変動への影響を踏まえ、石炭火力発電所の建設プロジェクト向け融資について、新規停止を検討中と明らかにした。」と報道されました。そして、これと呼応する形で4月28日に同じく日経新聞から「Jパワー、石炭火力建て替え断念」という記事が出ています。

このように、投資家のESGに対する意識の向上が、実際に企業活動を変えるようになっています。石炭火力のCO2排出量は天然ガスの2倍にも上りますので、環境に責任を負う投資家は投資することができません。
発電によるCO2
出典:電力中央研究所、電源別のライフサイクルCO2排出量、2010年

社会に貢献できる企業だけが資金を得られる時代に
かつて、投資家は最も高い収益が見込まれるところに出資するのが当然だと考えられていました。しかし、これでは環境や社会に悪影響を与える活動を助長することになりかねません。金融界はリーマンショック時に政府の救済を受けていますので、金儲け一辺倒の姿勢では世の中の理解を得ることができません

そこで、社会的な責任の一環として、ESG投資が注目されるようになります。その投資によって世の中が良くなることが求められるようになったのです。

なので、社会に悪影響を与えるとされている産業は資金を得ることが難しくなりました、上で紹介した石炭火力だけではなく、タバコ・銃・武器などがESG投資の対象外となっています。

逆に、人材育成に積極的であるとか、貧困の解決を目指しているとか、マイノリティー(女性・少数民族・LGBT・障碍者など)に配慮しているといった企業は資金を調達しやすくなりました。

新しい時代においては、収益性だけでなくその事業がどのように社会に貢献するのかまで投資家に説明することが必要になりました。


長期では金利と株価は正の相関
「金利と株価のフクザツな関係」の第2回です。前回の短期の関係に続いて、今回は長期的な関係について考察します。

3行要約
・長期では金利と株価は正の相関を持つ
・実際には、景気を共通の要因とする疑似相関
・景気が良くなると金利も上がるが、業績も改善するので株価は上がる


長期では金利と株価は正の相関
まずはじめに、金利と株価の変動を確認しておきましょう。
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「私の相場観(http://blog.livedoor.jp/business_cycle/archives/52047160.html)」からお借りした画像ですが、2000年あたりから金利と米国株(S&P500)が正の相関を持つようになっていることが分かります。

理論的には金利と株価は逆相関になるという話を前回書きましたし、現実に利上げは株価を押し下げます。何らかの理由により、長期と短期では関係性が逆転するようです。

長期の関係は「疑似相関」だった
結論から言うと、長期の関係は景気を共通の要因とする「疑似相関」です。景気がいいときは資金需要が増加するとともにインフレ期待も高まるので、金利が上昇します。それと同時に、景気が上向いてくれば企業の利益水準も高まりまり、当然、株価を押し上げます。

したがって、金利と株価の本当の関係は下図のようになっていると考えられます。
金利と株価
景気が良くなれば金利が上がりますので、これ自体は株価の重荷になります。しかし、好景気による業績の改善はそれを上回る力で株価を押し上げるので、トータルで株価は上昇するわけです。

金利と株価については、教科書的な記述と実際の関係は一見矛盾していますが、図に書いてみるとすっきりと理解することができました。

より詳細に見ていくと、金利の転換期(利上げや利下げの開始直後)は金利と株価が逆の相関になりやすいなど、相場のクセを発見することができますが、この点については改めて記事にしたいと思います。


金利上昇で2018年の相場は早々に荒れた展開
2018年の相場は2月のクラッシュをきっかけに荒れた展開が続いており、4月24日もダウ平均株価は424.56ドル値下がりしました。急変動の原因は3%越えを試す米国の長期金利なのですが、金利と株価の関係は長期と短期では真逆になっています。今回は、これらの短期的な関係を見ていきます。

3行要約
・理論株価は配当の割引現在価値
・金利が上がると割引現在価値は低下する
・金利上昇による株価のクラッシュには要注意


理論株価は配当の割引現在価値
金利と株価の関係を把握するためには、理論株価がどのように決まっているかを理解する必要があります。株式を保有することの金銭的な価値は配当金を得ることですので、金融理論では株価は配当の割引現在価値であるとされています。

「割引現在価値」という専門用語が出てきましたが、これは将来のお金を現在の金額で評価したものという意味です。お金を保有していれば運用して収入を得ることができますので、将来のお金はその分だけ低く評価しておく必要があります。

なお、割引現在価値は将来の収入を(1+r)の年数乗で割って求めることができます。例えば、金利が年3%なら、10年後に得る100円の割引現在価値は74.41円です。

金利と割引現在価値
割引現在価値の計算方法を見ればわかる通り、金利が上がれば将来の収入は小さく評価されることになります。金利が4%に上がったとすると、10年後に得る100円の割引現在価値は67.56円です。このように、金利が1%上昇すると将来の100円に対する評価額は6.85円下がってしまいます。

なお、金利と割引現在価値の関係をグラフにしたものが下図です。金利が上がるにつれて割引現在価値が下がっていくという関係を確認できます。
割引現在価値
金利が上がる限り、株価のクラッシュに要注意
株価の理論価格は配当の割引現在価値でしたから、金利が高くなれば株の理論価格は低下します。これが、株価と金利が逆相関になる理論的な背景です。

米国の長期金利は3%を突破して上昇しようとしていますので、時折クラッシュ的な値動きを見せると思います。理論的に正しい話ですので、慌てず対応できるようにしておきましょう。

次回は、金利と株価の長期的な関係について説明します。


衰退する公共交通
2018年3月のダイヤ改正でJR西日本の三江線が廃線となりました。JR北海道も維持不可能な線区を公表するとともに、不採算路線の廃線を進めています。バス路線の廃止も進んでおり、地方の公共交通をどのように維持するかが全国的に課題になっています。今回は、経済学の概念を使いながらこの問題を検討してみましょう。

3行要約
・国と自治体に交通政策を実施する義務が課された
・「内部補助」では赤字路線はますます不便に
・税を使った「外部補助」に切り替えることが必要


利便性低下と利用減の悪循環
人口減と自動車社会化を背景として、地方では公共交通が衰退してきました。需要の減少に対応し、運行本数の削減や料金の値上げも進みました。利用者の減少によって公共交通が不便になり、より一層利用する人がいなくなるという悪循環に数十年来見舞われています。

このような状況にあって、2013年に交通政策基本法が制定されました。

第一条
この法律は、交通に関する施策について、基本理念及びその実現を図るのに基本となる事項を定め、並びに国及び地方公共団体の責務等を明らかにすることにより、(中略)、交通に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、もって国民生活の安定向上及び国民経済の健全な発展を図ることを目的とする。

とあるように、国と自治体はそれぞれの責務を全うし、国民生活と経済のために交通政策を策定することとなりました。

内部補助による赤字路線の維持
現在の公共交通の問題の根源は、民間企業に赤字路線の運行をさせていることにあります。黒字路線を独占的に運行することを認める代わりに、赤字路線から撤退しにくくするという仕組みです。企業の内部で黒字路線から赤字路線に補助を出しているので、これを「内部補助」といいます。

営利企業としてはできるだけ不採算路線の赤字を増やしたくはありませんので、撤退できない以上は、運行を縮小させざるを得ません。その結果、一日に数本などという実質的に使い物にならない運行形態になってしまいます。「内部補助」という仕組みが地方路線の衰退を加速させる原因となっているのです。

また、内部補助には、黒字路線の利用者が赤字路線のためにどれだけ負担しているか見えないという問題もあります。

赤字でも必要なものはある
赤字であることを悪とする風潮がありますが、赤字であっても必要なものはあります。典型的には教育で、人材育成のために授業料で不足する分は税金を投入して補っています。交通であっても同様に、住民の生活に必要不可欠なのであれば税金を使って維持すべきです。

税金によって最低限の利便性を維持しながら、そのために要した負担の額を明確化することができます。負担が明確になれば、どこまでを維持すべきなのかを議論することも可能になります。

ユニバーサルサービス料の導入
財源が不足して税の投入ができないのであれば、ユニバーサルサービス料の導入も検討すべきでしょう。ユニバーサルサービス料というのは、全国どこでも最低限の生活をできるようにするために全ての利用者が一定の金額を負担するという仕組みです。通信でも導入されていて、電話であれば1回線当たり毎月3円ほど徴収されています。

全ての公共交通の利用者から一定の金額を徴収し、それを地方の路線を維持するために活用しようというわけです。この仕組みであってもやはり負担は明確化することができるというのは、一つのメリットです。

内部補助から外部補助に
税金の投入にしてもユニバーサルサービス料にしても、企業の外部から補助金を導入するという点でともに「外部補助」といいます。内部補助から外部補助に転換することによって、不採算であった路線も維持が可能になります。もちろん、どこまでを維持するか議論することも必要です。

なお、補助を外部化すれば黒字路線の収益を赤字路線に回す必要がありませんので、黒字路線に競争を導入することも可能になります。これによって、黒字路線の利用者は運賃の引き下げやサービスの向上といった恩恵を受けることもできるようになります。


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