よつき経済研究所

航空産業を専門に研究している経済学者の森本裕です。神戸にある甲南大学で教員をしています。このブログは火曜日と金曜日に更新しており、火曜日は「旅行に役立つ航空」について、金曜日は「経済学で身につける思考の技術」について記事を投稿します。また、大学教員ならではということで、今どきの学生気質や大学の裏事情についても不定期で発信します。

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2018年08月

鉄道激戦区の関西
京阪神は鉄道会社の競争が激しい地域として有名です。大阪-京都はJR・阪急・京阪、大阪-神戸はJR・阪急・阪神とそれぞれ3路線が並行して走っています。(ただし、阪急と阪神は同一企業による運営)

各社とも乗客をライバルにとられないようにするため、運賃を工夫しています。京阪間での鉄道競争に着目し、経済的な効果を考えます。




JR v.s. 阪急 v.s. 京阪
まず、大阪-京都間の鉄道路線を確認しましょう。JRと阪急は、淀川の右岸をほぼ同じ経路で走っています。京阪は京都と大阪を結ぶのは他社と同じですが、途中の経路は淀川の左岸です。
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この位置関係が、各社の運賃に現れてきます。


競争を意識した京阪の運賃表
京阪の運賃表を見て分かることは、近距離は高く、長距離が安いということです。17キロで310円まで運賃が上がりますが、そこからは54キロまで乗っても420円にしかなりません。
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「競争があるところは安く、ないところは高く」が基本ですが、まさにそうなっています。大阪-京都間はライバルがいるので安くしなければなりません。京橋-七条が44.0キロですが、40~50キロ程度を乗車する客からは、400円ほどしか徴収していません。

これに対して、路線の中ほどにある寝屋川市や枚方市には、京阪しか走っていません。(JR学研都市線はかなり外れを通っている。)なので、乗車距離が20キロ程度でも300円超の料金設定になっています。

関西で一番安い阪急電車
阪急は、神戸線も含めてほぼJRと並走しているため、全区間で割安な運賃設定になっています。
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例えば10キロ乗車するとき、京阪であれば270円のところ阪急は220円です。20キロで比較しても京阪の330円に対して280円です。このように、中短距離でも安価な運賃になっています。

ちなみに、競合する大阪市内-京都市内は京阪・阪急とも400円で同額です。

JRは割引運賃で対抗
JR西日本は運行線区が多いため、基本となる運賃テーブルとは別に、競争区間には特定運賃を設定しています。大阪-京都は42.8キロなので、基本の運賃は760円です。しかし、このままでは競合の400円と比べてあまりにも高すぎるので、特定運賃として560円としています。

さらに、これでも割高感があるため昼特きっぷを発売し、1回あたり350円で乗車できるようにしています。(平日は10-17時・土休日は終日利用可)

当たり前だけれども、競争でモノは安くなる
このように、競争の経済的な効果として、価格が低下するということが確認できました。もちろん鉄道以外であっても、競争があれば価格は下がります。いろいろな事例を見つけてみるのも、おもしろいと思います。



発着回数・旅客数ともに前年と同水準
7月分の関空の利用状況が発表されました。全体の発着回数は前年同期比でプラス1%、旅客数は横ばいでした。

6月18日の大阪北部地震と7月6~8日の西日本豪雨の影響が出たものと考えられます。6月は旅客が8%の伸びでしたから、災害を受けて急減速してしまいました。
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国際線は搭乗率が悪化
国際線についてみると、発着回数はプラス5%であるのに対し、旅客数はプラス3%でした。このところは旅客数のほうが伸びが大きかったので、1便当たりの利用者が増えていました。つまり、機材の大型化や搭乗率の向上があったわけです。

それが、7月は旅客の方が伸びが小さいので、予約の入りが悪かったということが分かります。内訳を見ても、日本人はプラス9%と堅調であったにもかかわらず、外国人がプラス1%にまで落ち込んでいます。

やはり、危険だということで日本旅行を取りやめた外国人が一定程度いたものと思われます。とはいえ、かろうじてプラスは維持しているので、8月以降の戻りに期待したいところです。

国内線は減便と運休の影響
国内線は発着回数・旅客数がともにマイナス9%と減ってしまいました。前年と比べて、バニラが函館便を運休するなど、LCCの減便・運休の影響が出ているものと思われます。

また、災害による運休もマイナスに働いています。発着枠がフルに使われている伊丹でも発着回数がマイナス2%でしたので、関空も同程度は運休があったものと考えられます。

冬ダイヤではANAが宮古線や札幌線で減便する一方、ジェットスターが熊本線を復活させるなど増便を計画しています。国内線を成長させるには、LCCターミナルの拡張など、Peach以外も運航しやすくなるように投資をしていく必要があると思います。




一緒になった阪急と阪神
かつて、阪急と阪神は別の会社でしたが、2006年に経営統合しました。いまは、阪急阪神ホールディングス(阪急阪神HD)という会社が阪急線・阪神線の両方を運営しています。

この記事では、神戸市内の移動がお得になる企画乗車券「神戸の休日」を例として、阪急と阪神の経営統合の効果を見たいと思います。




40%以上も安くなる「神戸の休日」きっぷ
はじめに「神戸の休日」きっぷの紹介からです。神戸の私鉄は、中心部の東側は阪急、西側は神戸高速鉄道と会社が分かれています。なので、普通に乗ると初乗り運賃が2回かかって割高になります。これを解消しようというのが「神戸の休日」なのです。
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神戸高速鉄道も阪急阪神グループ入り
阪急電鉄はみなさんご存知と思いますが、神戸高速鉄道はマイナーなので改めて紹介しておきましょう。

むかし、神戸市を起点とする鉄道会社はそれぞれ別の場所にターミナルを構えていました。なので、相互に行き来することができずに、非常に不便だったのです。それをつなぐために建設されたのが神戸高速鉄道で、神戸市と私鉄が資金を出し合いました。
KobeKosokuMap(150dpi)
みんなで「少しづつ」資金を出したので、特にどの会社にも属していなかったのですが、阪急と阪神が合併したことにより状況が変わりました。両社の株を合わせて50%以上になったので(神戸市からも一部を売ってもらいました)、阪急阪神HDの子会社になったのです。

これで阪急阪神HDは、神戸高速鉄道に経営陣を送り込めるようになりました。長くなりましたが、ここまでが前置きです。

個別最適から全体最適へ
このような経緯があって、阪急・阪神・神戸高速鉄道は一体的に経営されています。なので、運賃の調整をしながら全体の利益を考えられるようになりました。そういうわけで実現したのが、最大割引率42.3%の「神戸の休日」きっぷです。

ちなみに阪神版もあって、こちらも最大40%OFFです。
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解消された二重独占

最後に、この企画乗車券の経済学的な意味合いを考えておきましょう。

企業の数が少ないとき、「不完全競争」という問題が生じます。競争をする必要があまりないので、価格を高く設定できます。これによって、一部の人が電車を利用しなくなってしまう、つまり需要が抑制されてしまうのです。

そしてこの問題は、消費者が2社を利用しなければならないとき、より深刻なものとなります。専門的には「二重独占」といいますが、初乗り運賃を2回払わないといけないので非常に割高になるというイメージです。

阪急・阪神・神戸高速鉄道の経営統合により、二重独占が解消されました。そして、格安の企画乗車券が発売されたことにより、新たに鉄道を使って移動する人が増えました。これが、経営統合の経済学的な便益です。

金足農業 決勝進出!
秋田県立金足農業高等学校が、甲子園の決勝戦への進出を決めました。秋田勢として、決勝進出は103年ぶりの快挙です。しかも、県立高校が私立の強豪を破って勝ち進んだこともあり、日本中の注目を集めています。

秋田では県民総出で応援といった雰囲気になっているようで、一般・関係者を問わず甲子園まで観戦に出る人が多数います。これに対応するため、JALは秋田-伊丹線で臨時便を運航することを決めました。




臨時便で昼までには甲子園へ
通常、秋田-伊丹線は1日3便の運航です。機材は全便、リージョナルジェットのE90で供給座席数は計285席しかありあません。しかも、決勝戦に間に合うのは1便しかないということで、JAL4730便は満席になっていました。

なので、観戦需要に応えるため、増便を決めたようです。臨時便は14時のプレーボールまでに甲子園につけるよう、午前中に大阪に到着するダイヤです。
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JAL4730 秋田08:50-伊丹10:15 が臨時便で、20日23時時点では空席に余裕があります。なお、伊丹に到着後、すぐに甲子園に向かえば12時までには着くことができそうです。

秋田県として初優勝なるか?
秋田勢は春夏ともに甲子園で優勝したことがありません。最高記録は1915年に秋田中の決勝進出です。このときは京都二中との対戦で、2-1で敗れています。

この記事を書いている時点では試合はまだ始まっていませんが、初優勝の快挙を成し遂げられるか、気になるところです。



メモを取らない人たち
普段学生を指導しているが、勉強ができない学生はメモを取らない。今回書きたいのは、人の話を聞く時のメモではなく、考えたり問題を解いたりするときのメモのことである。

手を動かさずに、ひたすら考えるだけというタイプの学生が、なぜ勉強ができなくなってしまうのかについて話したいと思う。




考えたことは、10秒で忘れる
学校で、「試験では答えだけではなく、道筋も書くように」と指導された経験があるだろう。もちろん、部分点を出すためとか、カンニングを防止するためとか、いろいろな理由があるのだが、最も大事なのは思考したことを外部に書き出すことが重要だからである。

人間の記憶には「短期記憶」と「長期記憶」の2種類があるが、考える作業に使うのは短期記憶の方である。(長期記憶は暗記したものを引き出すために使う。)

今考えたことを、さしあたって脳内にとどめておくためのものが短期記憶なのだが、その有効時間はわずか10秒ほどしかない。つまり、10秒経ったら忘れてしまうのである。
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日常生活でも、ふと思いついたことが次の瞬間に「あれ、なんだっけ?」となることがあるだろう。これは、短期記憶の有効時間を過ぎたために、記憶から抜け落ちてしまったのである。

なので、考えたことを留めておくためには、「すぐに」書き出しておく必要がある。これが、メモを取るべき理由である。

論理が長くなると、先に考えたことは記憶の彼方へ
たとえば、「需要が減れば、価格が下がるのはなぜか?」について考えてみよう。(当たり前のようだが、こういったことを論理的に考えさせるのが大学教育である)

需要、つまり買いたい人が減るわけだから、供給がそのままであれば「売れ残り」が生じる。売れ残って腐ってしまうと丸損なので、企業は安くても売ろうとする。したがって、需要が減ると価格が下がる。

というのが簡単なメカニズムであるが、需要減(A)→売れ残り(B)→価格低下(C)というロジックである。

今回は短い例を使ったので賢明な読者は簡単に理解できたかもしれない。しかし、もう少し複雑になってくると(それぞれの部分を考えるのに10秒以上かかるようになると)、B→Cを考えているうちに、A→Bの部分を忘れてしまう。

なので、A→Bの部分を考えたならば、それをすぐに書き残しておかなければならない。

メモリー増設=メモ鶏
パソコンでもメモリー(=短期記憶)が不足すると動作が遅くなるが、これは、CPUで演算したことをメモリーに置いておけなくなるからである。人間も同じで、脳のメモリーが足りなくなると、何度も同じことを考え直さなければならなくなり、思考が遅くなる。

そうなったときには、メモリーを増設してあげればよい。パソコンなら直接増設できるが、脳をいじくることはできないので、物理的に追加するしかない。それが、「メモを取る」なのである。



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