よつき経済研究所

航空産業を専門に研究している経済学者の森本裕です。神戸にある甲南大学で教員をしています。このブログは火曜日と金曜日に更新しており、火曜日は「旅行に役立つ航空」について、金曜日は「経済学で身につける思考の技術」について記事を投稿します。また、大学教員ならではということで、今どきの学生気質や大学の裏事情についても不定期で発信します。

経済学に関心がある方は、ホームページ(https://yotsuki-compass.com/)にもお越しください。ツイッター(https://twitter.com/yotsuki_compass)でも最新ニュースに経済分析を加えています。

2019年02月

遠くに行く方が安い?
普通、乗り物に乗ると遠くに行くほど運賃は高くなるはずです。ところが、飛行機の場合は遠くに行った方がなぜか安くなることがあります。

今回は、この不思議な現象について紹介したいと思います。




調べてみたら、本当だった!
まずは、次の画像を見てください。
隠された都市
大阪からの運賃をフィンランド航空で検索したときの画面です。上段は大阪-ヘルシンキ間、下段は大阪-(ヘルシンキ経由)-マドリード間の運賃です。

常識的に考えて、マドリード行きの方がたくさん飛行機に乗っているわけですから、運賃が高くなるはずです。ところが、一部の日程ではそうなっていません。

例えば、5月31日に大阪を出発して、6月8日に現地を出る日程を見てみましょう。このケースではヘルシンキ行きの運賃は131,940円ですが、マドリード行きは121,600円でした。他にも、星が付いているところはマドリード行きの方が安くなっています。

まさに、遠くへ行った方が安いのです。頭のいい人は、これを応用して旅行代を安く済ませられると思ったのではありませんか?本当はヘルシンキまで行きたいのに、マドリードまでの航空券を買えば安くなると。

でも、この方法は運賃規約で禁止されています。これも航空業界の独自ルールで、使い始めた航空券を途中で放棄することはできません。新幹線であれば途中下車できるところ、飛行機では認められていないのです。

ですので、経由地点までしか飛行機に乗らなかったら最悪の場合、帰りの飛行機に搭乗拒否されてしまうかもしれません。

博士になったら学振をとろう
学振を取って博士に進学しようと考えている修士の学生は多いと思います。筆者も院生時代はそうでした。残念ながらDC1は取れませんでしたが、無事にDC2に採用されましたので、後輩たちに役立ててもらうために自分の経験について公開します。

「学振を取ったあとに待っている良いこと」もぜひお読みください!




3行要約
・学振に採用されると1000万円もの資金を得られる
・研究遂行能力が審査される
・将来科研費の応募にも役立つので、かならず学振に申請しよう

学振とは?

学振について噂程度しか知らない人のために、制度について簡単に説明します。学振とは、日本学術振興会の特別研究員のことです。特別研究員に採用されると、年間240万円の研究奨励金と最大150万円の研究費を受け取ることができます。

研究奨励金は実質的に給料で、使途は完全に自由ですし、所得税や住民税の課税対象にもなっています。研究費はその名の通り、実験設備や学会出張旅費など研究のために使用する資金です。

募集区分はDC1とDC2があり、応募資格はDC1はM2の学生、DC2は博士の学生です。任期はDC1で採用されるとD1~D3の3年間、DC2で採用されると採用後2年間です。

DC1であれば総額1000万円近く、DC2でも600~700万円程度の資金を手に入れることができますので、学生に対する支援としてはかなり充実しているものです。ですから、指導教員や先輩も学振に応募することを勧めてきますし、これを取得することを望む学生も多いのです。

応募書類の準備がかなり大変

そういう魅力的な制度ですので、ぜひ応募したいと思った方もいるでしょう。が、その応募書類がかなり大変なのです。分量は下記の通り、トータルA4で7枚分です。

これまでの研究状況 1.5枚
これからの研究計画 0.5枚
研究目的・内容 1枚

研究の特色・独創的な点 0.5枚
年次計画 1枚
人権の保護及び法令等の遵守への対応 0.5枚(該当者のみ)
研究成果等 1枚
研究者を志望する動機、目指す研究者像、自己の長所等 1枚


普段の研究と同時並行で進めなければなりませんの、準備期間はおよそ2か月は見ておくべきです。

研究成果は必要か?
もちろんあるに越したことはありませんが、筆者自身はなくても問題ないと思っています。筆者がDC2で通ったとき(応募はD1の5月)ですら、学会発表が1件と修士論文くらいしか実績はありませんでした。DC1であれば実績なしというのが普通でしょう。むしろ、M2の5月で実績ありの方が異常なくらいです。この点については学振の募集要項にも明記されていて、

〔審査方針〕 特別研究員-DC1、特別研究員-DC2
1.  学術の将来を担う優れた研究者となることが十分期待できること。
2. 研究計画が具体的であり、優れていること。
3. 研究計画を遂行できる能力及び当該研究の準備状況が示されていること。

出典:平成31年度(2019年度)採用分募集要項

というように、研究計画を重視していることが明記されています。

研究はしておくべき
研究成果は必要ないと書いたところですが、研究はしておくべきです。なぜなら、「これまでの研究状況」を1.5枚も書かされるからです。1.5枚というと、ロングアブストラクトぐらいの分量ですから、一通りの研究は終わっている必要があります。最低限、研究ノートくらいはなければ、研究計画を書くことができません。

提出書類は先輩に見てもらえ
学振取得に有利と言われる研究室があります。それは、決してボスのコネなどではありません。そういった研究室では「学振は取るもの」として位置づけられていて、通るためのノウハウが先輩から後輩へと継承され続けているのです。

うちの研究室には学振を取った先輩がいないよ、という場合はどうしたらいいでしょうか?筆者の場合も研究室で学振第一号です。それでどうしたかというと、学部時代のサークルの先輩を頼りました。筆者は経済学ですが、頼った先輩は化学です。学振の書き方は学部ごとにそう変わるものではありません。専門外の人に見てもらったほうが、客観的に見てもらうこともできます。

サークルや部活でなくても、隣の研究室など、どこかから学振を取った先輩を見つけてきましょう。こう言ってはなんですが、研究能力がある学生ではなく、文書作成能力がある学生が勝つのです。

学振には必ず応募しよう
最後になりますが、学振の申請書を書くという経験は学位を取った後にも役立ちます。科研費の申請書は学振とほとんど同じです。研究者を続けていくなら科研費は避けて通れませんが、学振に応募することはこれのいい練習になるのです。

落ちても損はありませんから、博士に進学を予定している学生は、ぜひ頑張って書いてもらいたいと思います。

みなさまに大切なお土産を差し上げます。学振採用時の申請書です。私のホームページにありますので、下のリンクから飛んでください。

欧米方面では往復2万円以上の値下がり!!
ANAが2019年4月~5月発券分の燃油サーチャージを発表しました。
燃油
現在は欧米路線では片道あたり17,500円のところ、4月からは7,000円に引き下げられます。往復だと2万円以上の値下げですので、海外旅行に行く人にとっては非常に朗報です。

ちなみに、燃油サーチャージは搭乗日ではなく発券日を基準として課せられますので、4月以降の旅行であっても3月までにチケットを購入してしまうと割高になりますので要注意です。

さて、今回は非常に大きな値下げになりましたが、これからも燃油サーチャージは低い水準を維持できるのでしょうか?直近のデータを用いて見通してみましょう。




燃油サーチャージは、2か月間の平均ケロシン価格で決まる
はじめに燃油サーチャージの決まり方から確認しましょう。航空機の燃料をケロシンといいますが、その2か月間の平均価格でサーチャージの金額が算出されます。

たとえば、6月~7月分のサーチャージであれば、2月~3月の平均ケロシン価格で決まります。この期間の平均価格が1バレル7,500円であったならばテーブルCに該当しますので、欧米方面は片道7,000円となります。
燃油サーチャージのテーブル

次期はやや値上がりする見通し
ケロシン価格は商品先物会社の北辰物産のホームページで確認することができます。ここのデータを用いて2月19日までのケロシンの平均価格を計算すると、1バレル8645円でした。

このまま行くと次期のサーチャージは1ステージ上がってテーブルDに値上がりしそうです
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というのも、2018年12月~2019年1月は世界的な相場波乱があった時期で、原油価格も大幅に落ち込んでいました。昨年末にはケロシン価格もストンと落ちていて、ドル建てでは65ドル、およそ7000円にまで下がっていたのです。

原油価格は安定に向かっていますので、サーチャージの値上がりは避けられないのではないかと思います。とはいえ、テーブルDというのは長期的に見て「ほどよい」水準でもあります。

適宜情報を更新していきますので、またご覧いただければと思います。

富が下までしたたり落ちるとしても・・・
新自由主義的な競争を重視した政策について議論するシリーズの第4回です。これまで、勝ち組富裕層の消費によって底辺まで潤うという「トリクルダウン効果」について書いてきました。3番目の記事では、統計データを使ってトリクルダウン効果は生じなかったと書きました。そして、労働者を保護するための規制が必要であることを述べました。





今回は、仮にトリンクルダウン効果があるとして、それが受け入れ可能なのかどうかについて検討してみましょう。

みんなが豊かになるなら、格差は拡大してもいいのか?
はじめに、次の状況についてどちらが望ましいかを考えてみてください。


世界A 富裕層:年収10億円 労働者:年収500万円
世界B 富裕層:年収1000万円 労働者:年収400万円

世界Aは格差は大きいけれども、普通の人の収入もそこそこあります。世界Bは富裕層の収入も1000万円と格差は小さいですが、労働者の収入も低くなっています。

ここでのポイントは、世界Aの方がみんな豊かだというところです。

この質問をTwitterでもしてみたところ、結果はこのようになりました。
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票数が26と少ないのが気になりますが、世界Bの方がいいと答えた人が3人に1人もいます。世界Aよりも明らかに全員が貧しいにもかかわらず、世界Bを選んだ人がこれだけいるのは驚きではないでしょうか?

この結果から分かることは、少なからぬ人が豊かさよりも平等を重視しているということです。言い換えると、経済的・物質的な豊かさよりも、人々が等しく暮らすことの方が大切だとする価値観を持っている人がかなりいるのです。

勝ち負けの差を、後で調整できるようにしよう
経済学者に限らず政治的エリートたちはきっと、「たとえ大富豪がもっと金持ちになったとしても、一般国民の暮らしが改善するのであればそれでいい」と考えているはずです。

それだから、格差の拡大を容認しつつ経済成長を追究する政策を取り続けています。経済のパイ自体が大きくなれば、その多くを富裕層が取ったとしても、普通の人が食べられる部分も多くなるからです。

ところが、3人に1人という意外と多くの人たちが、格差拡大の方を問題だと認識しています。あくまでも少数派ではありますが、無視することはできない人数です。

パイ自体を拡大することは豊かな生活のためには必要なことなので、規制を緩和して企業の力を引き出す政策は妥当です。ただ、勝ち組が圧倒的になるというのは受け入れがたいということであれば、わたしたちの社会は相続税や所得税の累進性を高めるなど、分配面を重視した方向に進んでいくのが良いのかもしれません。

ホームドアの設置費用を運賃に転嫁?
国交省は、ホームドアを設置するための運賃値上げを認める方針を示しました。

もともと国交省は、1日の利用者数が10万人以上の駅にはホームドアを設置するよう要請していました。しかし、1駅あたり数十億円にものぼる設置費用が壁となり、なかなか設置が進んでいませんでした。

鉄道会社にとってはホームドアを設置したところで乗客が増えるわけではないので、なかなか乗り気になれ慣れませんでした。(これは、満員電車問題も同様ですが。)

そこで、ホームドア設置の費用は受益者である乗客に負担してもらうように制度設計をする方針が出てきたわけです。

今回の記事では、新しい制度が実施されたときに、どの程度運賃が値上げされることになるかを検討します。



一駅当たりの費用は32億円
まず設置にかかる費用ですが、1間口あたり200万円~600万円です。費用にばらつきがあるのは、ドアの性能やホームの状況に大きく依存するためです。

ホームドアは1間口あたり500kgもの重量がありますので、これを支えられるようにホームの基礎を強化する必要があります。もともとしっかりしたホームであれば追加費用がかからないのに対して、軟弱であれば強化には大きなコストがかかります。

また、昇降式のバータイプの柵であれば費用は低廉で済みます。このように設置状況によって費用は大きく異なりますが、今回は1間口あたり400万円として試算しましょう。

ホームは10両編成対応で、1両あたり4つドアがあるとします。この場合、間口の数は1ホームあたりで40か所、上下線で80か所になります。したがって、1駅の設置費用は32億円であることがわかります。

ちなみに、JR東日本の公表資料「山手線への可動式ホーム柵の導入について」(2008年)によると、

「恵比寿駅」、「目黒駅」に可動式ホーム柵を整備するための工事費として、可動式ホーム柵の設置、ホームの構造改良等の地上工事で約30億円、定位置停止装置の設置等の車両改造工事で約20億円を見込んでいます。

となっています。2駅で50億円ですので、今回の試算で使う32億円は実際の費用と大きくは離れていないことが分かります。

費用の2/3は税負担
設置費用の負担者ですが、全額を鉄道会社が支払うわけではありません。バリアフリー事業ですので、エレベーターやスロープの設置と同様、国や自治体から補助金を受け取ることができます。
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国土交通省の資料によると、国と自治体がそれぞれ費用の1/3を負担します。ですから、鉄道会社の負担は残りの1/3だけです

このことを考慮すると、1駅あたりの費用は10.7億円になります。


中規模の駅でも利用者負担はたったの10円
さて、この10.7億円を運賃で回収するわけですが、どの程度の値上げが必要なのでしょうか?

加算運賃を永久的にとるわけにはいきませんので、10年間で回収を目指すものとします。乗降客数を10万人とすると、1年間での利用者数は3650万人、10年間では3億6500万人です。

単純に割り算をすると、1人当たり2.93円です。意外と安いですね。

乗降客数が5万人の駅であればおよそ6円、3万人であればおよそ10円です。この辺りまでであれば、安全性と定時運行の対価として負担できるのではないでしょうか?

ちなみに、乗降客数3万人というのは都心の少し外れにある駅や、郊外の中心駅が該当します。JR西日本であれば塚本(33998人)、西宮(38608人)、大津(34502人)などが3万人に近いです。

今回の試算では、利用者が少額の負担をするだけでホームの安全が確保されるようになることが分かりました。国交省には是非、新しい制度を実行に移してもらえればと思います。

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