よつき経済研究所

航空産業を専門に研究している経済学者の森本裕です。神戸にある甲南大学で教員をしています。このブログは火曜日と金曜日に更新しており、火曜日は「旅行に役立つ航空」について、金曜日は「経済学で身につける思考の技術」について記事を投稿します。また、大学教員ならではということで、今どきの学生気質や大学の裏事情についても不定期で発信します。

経済学に関心がある方は、ホームページ(https://yotsuki-compass.com/)にもお越しください。ツイッター(https://twitter.com/yotsuki_compass)でも最新ニュースに経済分析を加えています。

大学・教育

どんな論文でも合格させてしまうハゲタカたち
ハゲタカジャーナルとかハゲタカ学会なるものが問題になっているようです。より堅い言い方をすると、粗悪雑誌・粗悪学会となります。

これらのハゲタカたちは、数万円の投稿代や参加費さえ払ってもらえれば、後は研究内容審査もせずに「合格」させていて、これが批判されているようです。

アカデミック外の人からしてみれば、「高い金をハゲタカに貢いでまで雑誌や学会に研究成果を出す意味はあるのか?」と感じるのではないでしょうか。

今回は大学事情に触れながら、一般向けにハゲタカ問題についてお話ししたいと思います。




ハゲタカといわれても、必要とされているから存在する
批判されようが何だろうが、需要があるからこそハゲタカビジネスが成り立ちます。では、どのような需要があるのでしょうか?

1.どうしても「成果」が欲しい
常識的に考えたとき研究成果とは、何か有用で社会の役に立つもののことを指しそうです。ところが、アカデミック界で成果というと、研究発表や論文掲載のことをいいます。

まともな学会であれば、程度が低い研究は発表させてもらえませんし、雑誌にも掲載してくれません。だからこそ、発表や掲載論文は評価されるのです。

ただし、みんながみんなレベルの高い研究をできるとは限りません。どれだけ努力をしてもいい研究ができない人もいるのです。

そういう研究者であっても成果は欲しいですから、審査をまともにすることなく合格を出してくれるハゲタカさんにお金を払ってしまいます。

2.成果がないと研究できない
かつては基礎的研究費と呼ばれる予算がたくさんありました。基礎的研究費とは、全員に対して無条件に支給される研究費のことを言います。なので、かつては研究費の獲得に困ることはあまりありませんでした。

ところが、近年は「成果の見込めないところには研究費をださない」という方針に変わったため、実績がない研究者は予算を付けてもらえなくなってしまいました。(ちなみに、選抜をして優秀な人にだけ支給される研究費のことを、競争的資金といいます。)

そうすると、「成果がない→研究費がない→成果がない」のループにはまってしまいます。こうなってはどうしようもないので、ハゲタカさんにお金を払って、成果を買う必要が出てくるのです。

3.成果がないと就職できない
これもまた近年深刻になっているポスドク・オーバードクター問題と関係しますが、成果が上がっていない人は正規雇用のポジションを得られなくなりました。就活では、研究成果を厳しくみられる時代になったのです。

若手の研究者は本来、長期的な視点から腰を据えて研究に励むべきですが、自分の将来がかかっているので悠長なことを言っていられません。これまた、ハゲタカさんにお金を出して成果を作らなければなりません。

ハゲタカ対策は、しっかりと成果をチェックすること
以上の3つの理由があって、コストはかかるけれどもハゲタカも必要とされています。ハゲタカ批判をしても、需要がある以上はなくなることはないでしょう。

このことの根本原因は、「研究の中身を見られないこと」にあります。研究費の配分にしても就活にしても、表面的に論文があることだけをチェックして、中身を読まないのが良くないのです。

粗悪なハゲタカを駆逐するためには、アカデミック界にいるわれわれが成果についてしっかりと考える必要があるのだと身に染みて反省するところです。

博士になったら学振をとろう
学振を取って博士に進学しようと考えている修士の学生は多いと思います。筆者も院生時代はそうでした。残念ながらDC1は取れませんでしたが、無事にDC2に採用されましたので、後輩たちに役立ててもらうために自分の経験について公開します。

「学振を取ったあとに待っている良いこと」もぜひお読みください!




3行要約
・学振に採用されると1000万円もの資金を得られる
・研究遂行能力が審査される
・将来科研費の応募にも役立つので、かならず学振に申請しよう

学振とは?

学振について噂程度しか知らない人のために、制度について簡単に説明します。学振とは、日本学術振興会の特別研究員のことです。特別研究員に採用されると、年間240万円の研究奨励金と最大150万円の研究費を受け取ることができます。

研究奨励金は実質的に給料で、使途は完全に自由ですし、所得税や住民税の課税対象にもなっています。研究費はその名の通り、実験設備や学会出張旅費など研究のために使用する資金です。

募集区分はDC1とDC2があり、応募資格はDC1はM2の学生、DC2は博士の学生です。任期はDC1で採用されるとD1~D3の3年間、DC2で採用されると採用後2年間です。

DC1であれば総額1000万円近く、DC2でも600~700万円程度の資金を手に入れることができますので、学生に対する支援としてはかなり充実しているものです。ですから、指導教員や先輩も学振に応募することを勧めてきますし、これを取得することを望む学生も多いのです。

応募書類の準備がかなり大変

そういう魅力的な制度ですので、ぜひ応募したいと思った方もいるでしょう。が、その応募書類がかなり大変なのです。分量は下記の通り、トータルA4で7枚分です。

これまでの研究状況 1.5枚
これからの研究計画 0.5枚
研究目的・内容 1枚

研究の特色・独創的な点 0.5枚
年次計画 1枚
人権の保護及び法令等の遵守への対応 0.5枚(該当者のみ)
研究成果等 1枚
研究者を志望する動機、目指す研究者像、自己の長所等 1枚


普段の研究と同時並行で進めなければなりませんの、準備期間はおよそ2か月は見ておくべきです。

研究成果は必要か?
もちろんあるに越したことはありませんが、筆者自身はなくても問題ないと思っています。筆者がDC2で通ったとき(応募はD1の5月)ですら、学会発表が1件と修士論文くらいしか実績はありませんでした。DC1であれば実績なしというのが普通でしょう。むしろ、M2の5月で実績ありの方が異常なくらいです。この点については学振の募集要項にも明記されていて、

〔審査方針〕 特別研究員-DC1、特別研究員-DC2
1.  学術の将来を担う優れた研究者となることが十分期待できること。
2. 研究計画が具体的であり、優れていること。
3. 研究計画を遂行できる能力及び当該研究の準備状況が示されていること。

出典:平成31年度(2019年度)採用分募集要項

というように、研究計画を重視していることが明記されています。

研究はしておくべき
研究成果は必要ないと書いたところですが、研究はしておくべきです。なぜなら、「これまでの研究状況」を1.5枚も書かされるからです。1.5枚というと、ロングアブストラクトぐらいの分量ですから、一通りの研究は終わっている必要があります。最低限、研究ノートくらいはなければ、研究計画を書くことができません。

提出書類は先輩に見てもらえ
学振取得に有利と言われる研究室があります。それは、決してボスのコネなどではありません。そういった研究室では「学振は取るもの」として位置づけられていて、通るためのノウハウが先輩から後輩へと継承され続けているのです。

うちの研究室には学振を取った先輩がいないよ、という場合はどうしたらいいでしょうか?筆者の場合も研究室で学振第一号です。それでどうしたかというと、学部時代のサークルの先輩を頼りました。筆者は経済学ですが、頼った先輩は化学です。学振の書き方は学部ごとにそう変わるものではありません。専門外の人に見てもらったほうが、客観的に見てもらうこともできます。

サークルや部活でなくても、隣の研究室など、どこかから学振を取った先輩を見つけてきましょう。こう言ってはなんですが、研究能力がある学生ではなく、文書作成能力がある学生が勝つのです。

学振には必ず応募しよう
最後になりますが、学振の申請書を書くという経験は学位を取った後にも役立ちます。科研費の申請書は学振とほとんど同じです。研究者を続けていくなら科研費は避けて通れませんが、学振に応募することはこれのいい練習になるのです。

落ちても損はありませんから、博士に進学を予定している学生は、ぜひ頑張って書いてもらいたいと思います。

みなさまに大切なお土産を差し上げます。学振採用時の申請書です。私のホームページにありますので、下のリンクから飛んでください。

学会ってどんなところ?
学会と聞いてどんなところを想像するでしょうか?大学教授がまじめに議論しているとか、何やら難しいことをしていそうだとか、はたまた、大学を離れて息抜きをしているとか、色々なイメージを持っている人がいると思います。

ちょうど香港で開催されたITEA(International Transportation Economics Association)の年次大会に参加してきましたので、その報告もかねて学会とはどのようなところなのかを紹介したいと思います。


メインは研究発表
まずは、百聞は一見に如かずということで学会会場の写真をご覧ください。IMG_20180628_090043
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私が研究報告をしている様子ですが、雰囲気としては教室で授業をしているのと同じです。聞いているのが専門家ということで、精神的には疲れますが。。。

発表時間が20分、討論が10分で持ち時間は計30分というのが標準的なところです。自分が進めてきた研究が他の研究者にも受け入れてもらえれば万々歳です。問題点やさらに掘り下げるべきところを指摘されれば、今後の研究に反映させることにします。

意外と大事な休憩時間
自分の持ち時間だけではなく、休憩時間にも研究について語り合います。IMG_20180625_103852
ラウンジにはコーヒーとスナックが用意されることが多いですが、これらを片手にディスカッションです。

研究の話だけではなく、近況報告や大学の事情についても情報交換します。研究費の取り方についての情報も有用です。年1回(数年に1回のことも)しか会わない仲間ですので、プライベートな話で盛り上がることもあります。

休憩時間の方がホンネの情報が手に入るので、こちらが学会参加の主目的という先生もいます。

気分転換の旅行という面も・・・
日々忙しい先生方はなかなか休みを取れませんので、日常から離れて気分転換できるのも、一つのメリットです。たいていは「後泊」をしますので、最終日は観光して帰ることが多いです。(一部の人は、学会をサボって遊びに出かけることも・・・)
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学振が持つステータス
金銭的な恩恵について書いた「その1」の続きです。今回は、学振を取っているというステータスの力についてお話ししたいと思います。筆者としては、金銭的なものよりも、むしろステータスの方が価値があるのではないかと感じています。

3行要約
・職歴として使え、就職に有利
・アカデミック外で社会人として扱われる
・精神的にも安定し、研究に専念できる


職歴としてカウントできる
学振を取っているといろいろと周囲の目が変わってきますが、特に役に立ったのは就活のときです。ファーストジョブを見つけるのは極めて大変で、長年ポスドクやOD(オーバードクター)にとどまらざるを得ないこともあります。

そんなときに、学振は「職歴」として履歴書に書けるので非常に有利です。筆者自身も博士取りたてで甲南大学に就職していますが、着任後に聞いたところでは学振は評価しているとのことでした。学振がなければ、おそらく面接にも呼んでもらえなかったでしょう。

学振の採択率は20%程度ですし、学振取得者の割合は全博士課程の学生に対して7%ぐらいしかありません。ですから、「学振取得者は研究能力がある」というシグナリングとして有効に機能するのです。

アカデミック外で社会人扱いになる
大学業界内であれば博士課程の学生はあたたかく見守ってもらえるのですが、一般社会では博士というのは希少種ですのであまり認知されていません。大学生の延長線上に見られることがほとんどです。悪くすれば、30手前になっても働いていない扱いで、むしろマイナスです。

ところが、学振を持っていれば肩書も「学術振興会 特別研究員」になりますし、給料も出ているので社会人として対外的に通用します。筆者は、業界内では学生、業界外では社会人として身分を使い分けていました。社会人として活動すれば、名刺交換もしやすくなりますし、人脈の構築にも有益です。

一部の人は、働きながら大学院に通う「社会人ドクター」と勘違いしていたようですが。。。

自己肯定感が増す
これはステータスではないのですが、学振を持っていると自己肯定感が増します。D3ともなればストレートでも27歳です。同級生たちは働き始めてとっくに5年目です。この状況はかなり焦ります。置いて行かれた感が強烈です。

こんな状況であっても、学振を持っていれば「自分はもう社会人」なんだと言い聞かせることができます。余分な不安を抱え込まずに済めば、精神的にも研究に専念することができます。

学振はメリットが盛りだくさん
ここまで2回に分けて学振を取ることのメリットについて書いてきました。これというのも、筆者自身がその恩恵をフルに受けてきただけに、後輩たちにもぜひ学振を狙ってほしいからです。

また、博士課程に興味がなかった修士の学生にも、学振を取って博士に進学してもらいたいからです。現状ではアカデミックに希望を持てず修士で去っていく人がほとんどです。しかし筆者としては、優秀な頭脳には大学に残ってもらい、研究者として世界を良くしていって欲しいのです。

もしも、学振に応募するうえで質問があればコメント欄に投稿してください。採択時の申請書を参考にしたい人は、このリンクの先に置いてありますのでご覧ください。


学振に採択されるメリット
以前書いた「学振をとるために修士ですべきこと」の閲覧数が多かったので、やはり院生にとっては関心がある話だったのだと思います。筆者自身、応募前はノウハウをあさっていましたから、そこはよく分かります。

提出に向けてラストスパートをかけているところだと思いますが、モチベーションを上げるために、学振に採択された後にどのような良いことがあるかについてまとめます。

2回に分けて書きますが、今回は金銭的なメリットについて、次回は学振というステータスのメリットについてです。


大学外での活動を充実できる
承知の通り、年間240万円の給料と100万円程度の研究費を受け取ることができます。筆者が自身の経験を振り返って、具体的に何ができるようになるかについてお話しします。

経済学の院生だった筆者にとっては、研究室内での仕事にはあまり経費が掛かりませんでした。それに、ソフトウェアや教科書については指導教員であった文世一先生に用意していただきましたので(ありがとうございました。)、自費で負担する必要はありませんでした。

なので、学振の資金は主に大学外での活動に充てることができました。学会発表と海外への短期滞在です。

毎年の学会発表
海外の学会に参加するためには、アジアで15万円、欧米では30万円ほど必要です。この資金を自分で出せるようになるのは大きいです。

今時の研究者は国際誌への投稿が必須ですので、自ずと研究者間のネットワークもインターナショナルになります。国際学会に参加して、最先端の研究動向を知ることができたのは非常に有意義でした。

また、ジャーナルの編集者も参加していますので、顔見知りになれば採択の方針も教えてもらえますし、業績を増やすための手がかりも得られます。

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コーヒータイム
著名大学での短期滞在
資金に余裕があった年は、海外の大学に短期滞在もしました。筆者の専攻は交通経済学なのですが、この分野で権威ある"Vrije Universiteit Amsterdam"で2ヶ月間研究に専念しました。

トップジャーナルに論文を多数掲載している先生方とのディスカッションは刺激的でした。また、そのような方と知り合いになることができたのも貴重でした。今後、共同で研究するチャンスも大きくなります。

院生同士の付き合いも楽しいものでした。ルームシェアで住んでいたのでニュージーランド人やスペイン人と同室だったのですが、出身国の経済状況について議論することができました。
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この時に知り合った方々とは、今でもFacebookでつながっていますし、学会でもお会いします。

まとめ
100万円あれば何ができるのかという観点で書いてみました。筆者にとっては、「海外での経験を積んだこと」「研究者間のネットワークを築くことができたこと」の2点が大きなメリットでした。

次回は、学振というステータスが持つ効果について書く予定です。

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