金融政策はなぜ景気に効くのか?
前回の記事(経済学は不景気を克服できるか?)では、景気を安定させる手法として金融政策があると述べました。では、金融政策で景気を良くするメカニズムは何なのでしょうか?金融政策について簡単に説明した後に、景気を押し上げる仕組みについて解説します。
昔からの金利操作と、新しい貨幣供給量操作
金融政策は大きく分けて、金利操作と貨幣供給量操作の2種類があります。金利操作とは、短期金利を上げ下げすることで景気を安定させることを目指します。金利操作では、とりわけ、翌日物と呼ばれる1日だけの取引で使われる金利や、中央銀行に預け入れた時の金利が操作の対象となります。
貨幣供給量操作は、(厳密な表現ではありませんが、)銀行が貸し出しや投資に回せる資金の量を調整します。具体的には、銀行が日銀に預けている預金の量を増やしたり減らしたりします。
金を借りやすくして、投資と消費を増やす
では、これらの金融政策がどのようにして景気に効くのかについてですが、金利操作から考えましょう。まず、短期金利(=変動金利)を下げれば直接的に借り入れがしやすくなります。利息の支払いが軽減されるわけですから、当たり前の話です。
短期の金利が下がれば長期金利(=固定金利)もつられて下がりますので、やはり借り入れがしやすくなります。
金を借りやすくなれば、企業は設備投資を増やすことができますし、個人も住宅の購入が容易になります。これによって、投資や消費という需要を喚起することで、景気を刺激するわけです。
銀行をカネ余りにして、貸し出しを増やす
とはいえ、この金利操作には問題点が1つあります。それは、金利はゼロ以下にはしにくいということです。近年はマイナス金利政策も導入されつつありますが、銀行の預金や貸出金利はなかなかマイナスにはできません。そんなときに活用されるのが貨幣供給量操作で、量的金融緩和と呼ばれています。
これは、銀行が保有している国債や社債を買い入れることで、銀行に現金を供給するというものです。日銀が銀行から国債や社債を買い取ると、その代金は日銀にある各銀行の口座に振り込まれます。
この口座の預金には金利が付きませんので(量的緩和をするときは既に短期金利がゼロになっている)、銀行にとってみれば「死に金」です。そうすると、少しでも金利を取るために、どこかに貸し付けようとします。
銀行の貸し出し姿勢が前向きになりますので、とりわけ信用力の低い中小企業やベンチャー企業にとっては資金調達がしやすくなります。そうすると金利操作の時と同様に、投資が増えて経済が活性化するわけです。
余談ではありますが、少し前に話題になったアパートローンの急増も、貸付先がなくて困った銀行が不動産に融資したということで、根っこは量的緩和にあるのです。
金融政策は、間接的な政策というところが弱点
このように、金利操作も貨幣供給量操作も投資や消費という需要を作り出すことで経済を活性化させることを目的としています。金融政策は「間接的に」需要を増やす政策なので、政策効果が出るまでに時間がかかること、そして結局のところ金を借りてくれる人がいなければ効果が出ないという限界があります。
その点、財政政策であれば公共事業や減税によって直接的に需要を増やすので、確実かつ迅速に経済を刺激でいるというメリットがあります。財政の悪化という重大な欠陥もありますが。