よつき経済研究所

経済学者の森本裕です。専門は交通経済学と都市経済学です。神戸にある甲南大学で教員をしています。経済学のメインテーマである、価格=モノの値段についてコラムを書きます。また、大学教員ならではということで、今どきの学生気質や大学ついても不定期で発信します。

経済学に関心がある方は、ホームページ(https://yotsuki-compass.com/)にもお越しください。ツイッター(https://twitter.com/yotsuki_compass)でも最新ニュースに経済分析を加えています。

経済学

やはりマスク転売を規制する必要がない理由
コロナウイルスの感染が拡大する中、マスクの転売が引き続き問題になっています。メルカリはマスクの高額出品を削除する方針を取っていますが、イタチごっことなっています。

少し検索しただけでも高額出品は見られますし、実際に成約した事例もあるようです。画像のように、50枚入りが1万円で売れていました。
mask
さて、この転売が問題なのかというと、先の記事「マスクの転売は問題なのか?」でも書いたように問題ないというのが私の答えです。ただし、所得格差が大きいときには注意が必要ですので、この点について検討してみましょう。

転売のおかげで、必要とする人が限られたものを買えるようになっている
まず始めに確認ですが、転売屋のおかげで、カネさえ払えばマスクを手に入れられるという環境が実現されています。転売屋がいなければ、マスクは早い者勝ちで売り切れてしまいますから、必要性が高い人が買えるという保証はありません。なので、転売屋がいなければ、どうしてもマスクが必要な人は困ってしまうわけです。

このロジックでは、暗に「必要性が高い人=高い金額を支払う」という仮定を置いています。これはある意味では正しくて、日常生活においても、どうしても欲しいものは高くても買いますから。ところが、所得格差を考えると、この仮定は成立しなくなります。

お金がなければ、どれだけ必要でも買えない・・・
とんでもない金持ちは、大してマスクが必要なくても大金を払うかもしれません。逆に、貧乏な人はどうしてもマスクが必要でもお金を出すことができません。このように考えると、転売屋のせいで低所得の人がマスクを買えなくなってしまうということが起こりえることもありそうです。

このように所得格差を考慮に入れると、問題が生じうることが分かります。とはいえ、現時点ではマスクは生存のための必需品ではありませんので(この点については異論もあるかとは思いますが)、買えなかったからといって即、肺炎に罹って死亡するということもないでしょう。

今はまだ、転売は規制しなくてもよい
このようなことから、「普通の人にとって」必要なものがカネさえ払えば手に入るという状況を作っておくことを優先してもいいのではないかと考えています。

もし今後、日本でコロナウイルスが大流行して、マスクが生命維持に必要不可欠となれば状況は変わってきます。このようなときには、定価であってもマスクを買えない人がいれば問題なわけで、積極的に国が介入する必要が出てきます。例えば、生活保護者にはマスクを現物で支給するとか、全国民に配給するといった、非常時の対応が求められるでしょう。

転売行為に一理あり
コロナウイルスの感染拡大で、マスクの転売が問題になっています。読売新聞も「マスク1箱5万円超も…高額販売が後絶たず、メルカリが出品削除」と転売について報じています。転売問題は本当に問題なのか考えてみましょう。

まず、転売が起きる背景ですが、高くても買う人がいるというのがキーポイントです。つまり、1箱に5万円支払ってでもマスクを手に入れたいという需要があるわけです。このあたり、需要がある限り価格が上がるという経済の大原則に忠実です。

高い金を支払いたい人がどういう人かというと、大金持ちという可能性もありますが、多くはどうしてもマスクを手に入れたいといったところでしょう。そうすると、店頭では在庫切れで買えないところ、カネさえ積めばマスクを手に入れられるわけだから転売屋もありがたい存在と言えます。

もう少し経済学的に考えてみます。転売屋のおかげで、絶対数が不足しているマスクが、より必要度が高い人(高い金を支払いたいと思う人)のところに行きわたるようになっているわけです。専門的には資源配分が効率的になっていると言いますが、簡単に言うと、より欲しいと思っている人が限りあるものを手に入れているという状態です。

もし転売屋がいなければ、あまり必要というわけではないけれど、多くの店舗を回れる暇な人がマスクを持っているという状態になってしまうわけです。こう考えると、転売行為は意味のあることだと言えそうです。

在庫で流通から外れる分は無駄になっている
とはいえ、転売にも1つ大きな問題があります。それは、ただでさえも不足しているマスクの流通量を減らしてしまうということです。転売屋は商品であるマスクを一旦買い込む必要があるので、その分だけ一時的に流通量が減ってしまいます。つまり、転売屋の倉庫や自宅に眠っている分だけ、大切なマスクが使えない状態になっているのです。
マスク
そういうわけで、筆者としては基本的に転売には賛成です。転売屋が利益を得る分だけ一般消費者は負担を強いられるわけですが、それでも、限られたマスクが求められているところに行くという便益は重要だと考えています。

最もいいのは、店頭での価格を適度に上げること
ただ筆者としては、メーカーや小売りといった公式な流通経路が値上げすることを市民が許容することが重要だと考えています。なぜなら、公式な流通において売り切れが生じない程度の価格が設定できれば、転売行為が生じえないからです。そうすると、今よりは高くても、転売よりも安い値段でみんながマスクを買えるようになるからです。

金融政策はなぜ景気に効くのか?
前回の記事(経済学は不景気を克服できるか?)では、景気を安定させる手法として金融政策があると述べました。では、金融政策で景気を良くするメカニズムは何なのでしょうか?

金融政策について簡単に説明した後に、景気を押し上げる仕組みについて解説します。



昔からの金利操作と、新しい貨幣供給量操作
金融政策は大きく分けて、金利操作貨幣供給量操作の2種類があります。

金利操作とは、短期金利を上げ下げすることで景気を安定させることを目指します。金利操作では、とりわけ、翌日物と呼ばれる1日だけの取引で使われる金利や、中央銀行に預け入れた時の金利が操作の対象となります。

貨幣供給量操作は、(厳密な表現ではありませんが、)銀行が貸し出しや投資に回せる資金の量を調整します。具体的には、銀行が日銀に預けている預金の量を増やしたり減らしたりします。

金を借りやすくして、投資と消費を増やす
では、これらの金融政策がどのようにして景気に効くのかについてですが、金利操作から考えましょう。

まず、短期金利(=変動金利)を下げれば直接的に借り入れがしやすくなります。利息の支払いが軽減されるわけですから、当たり前の話です。

短期の金利が下がれば長期金利(=固定金利)もつられて下がりますので、やはり借り入れがしやすくなります。

金を借りやすくなれば、企業は設備投資を増やすことができますし、個人も住宅の購入が容易になります。これによって、投資や消費という需要を喚起することで、景気を刺激するわけです。

銀行をカネ余りにして、貸し出しを増やす
とはいえ、この金利操作には問題点が1つあります。それは、金利はゼロ以下にはしにくいということです。

近年はマイナス金利政策も導入されつつありますが、銀行の預金や貸出金利はなかなかマイナスにはできません。そんなときに活用されるのが貨幣供給量操作で、量的金融緩和と呼ばれています。

これは、銀行が保有している国債や社債を買い入れることで、銀行に現金を供給するというものです。日銀が銀行から国債や社債を買い取ると、その代金は日銀にある各銀行の口座に振り込まれます。

この口座の預金には金利が付きませんので(量的緩和をするときは既に短期金利がゼロになっている)、銀行にとってみれば「死に金」です。そうすると、少しでも金利を取るために、どこかに貸し付けようとします

銀行の貸し出し姿勢が前向きになりますので、とりわけ信用力の低い中小企業やベンチャー企業にとっては資金調達がしやすくなります。そうすると金利操作の時と同様に、投資が増えて経済が活性化するわけです。

余談ではありますが、少し前に話題になったアパートローンの急増も、貸付先がなくて困った銀行が不動産に融資したということで、根っこは量的緩和にあるのです。

金融政策は、間接的な政策というところが弱点
このように、金利操作も貨幣供給量操作も投資や消費という需要を作り出すことで経済を活性化させることを目的としています。

金融政策は「間接的に」需要を増やす政策なので、政策効果が出るまでに時間がかかること、そして結局のところ金を借りてくれる人がいなければ効果が出ないという限界があります。

その点、財政政策であれば公共事業や減税によって直接的に需要を増やすので、確実かつ迅速に経済を刺激でいるというメリットがあります。財政の悪化という重大な欠陥もありますが。

戦後最長の景気回復
2012年12月から始まる景気回復は73ヶ月に達し、2019年1月には戦後最長を更新する。失業率も直近で2.4
%と歴史的な低水準である。

人手不足を原因として賃金も上昇し、ボーナスの平均支給額は前年比+3.4%の87万円(製造業平均、日経新聞2018年12月11日)となった。非正規社員の給料も上がっており、アルバイトの平均募集賃金は前年比+2.7%の1052円(日経新聞2018年12月13日)である。

このように、正規・非正規を問わず生活の改善は広く行きわたっているが、6年を超える景気回復の恩恵である。好景気の背景には経済政策(アベノミクス)の成功があるが、経済学によって不景気を克服することは可能なのだろうか?



経済政策で不景気に対応できる
経済学が提唱してきた経済政策とはどのようなものだろうか?これは、財政政策と金融政策に大きく分けることができる。

財政政策には、政府支出と減税の2種類がある。前者は政府が支出を増やすことによって、直接的に有効需要を作り出すものである。後者は国民の可処分所得を増やすことを通じて、消費を刺激する方法である。

金融政策は金利の引き下げによって借り入れを容易にし、投資や不動産の購入を活発化させるのが主眼である。

近年は金利がゼロにまで下がってしまったので、量的緩和政策が主な政策手段となった。金融機関が保有していた国債などを日銀が買い取ってしまうことで、その代金を貸し出しに回させようとするものである。それによって、投資が増えることが期待される。
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そもそも不景気というのは需要が不足している状態であるから、上記のような方法で消費や投資を増やせば簡単に解消できるものなのである。逆に言うと、好景気を持続させるのも簡単である。

景気回復は長くても、低成長
ところが、ことは単純ではない。2012年からのGDPの推移を見てみよう。
GDP
2012年7~9月期に497兆円で底を打った後、多少の波があるものの2018年7~9月期には532兆円まで増加した。6年間でトータル7.03%の成長である。年率に換算するとわずかに1.14%だ。

高度経済成長期であれば1年もかからずに達成できた成長を、今は6年かかってようやく実現しているのである。この成長率の低さが好景気を実感できない理由である。

それでは、経済政策で、成長の水準自体を引き上げることは可能なのだろうか?これはほとんどノーである。なぜなら、経済活動の水準は長期的に生産力に依存するからである。

効率よく生産する技術や、事務作業を省力化する仕組みは工学的な革新によってもたらされるものなので、経済学ではどうにかすることはできない。(研究開発を支援するような制度・政策を考案することは経済学の仕事ではあるが。)

景気の安定はできても、高度成長は実現できない
今回の話をまとめると、 「経済学は不景気を克服することはできる」という結論になる。ただし、「景気変動を緩やかにすることができる」がより正確な表現である。

ところが、長期的な成長率自体を引き上げることはほとんど不可能である。この意味では、経済学によって生活水準を急速に改善させることはできないし、せいぜい研究開発を促すような政策を考え出すのがいいところである。やはり、「平均成長率」を引き上げるためには、工学的な技術革新が不可欠なのである。

無形資産とは?
資産の話を続けてきましたが、今回は無形資産についてです(第1回第2回はこちらから)。資産といえばお金や株といった金融資産、建物や商品といった有形資産がイメージされますが、無形で見えなくても価値を有する者もあります。

会計学では資産とは「将来キャッシュを生み出すもの」をすべて指しますから、有形でなくても構いません。では、無形資産にはどのようなものがあるのでしょうか?



目に見えなくても収益をもたらすものはある
無形資産の代表的なものとして、特許・商標権・著作権といった知的財産権があります。サンリオやディズニーは典型的に、著作権で儲けいている企業です。
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東京ディズニーリゾートを経営するオリエンタルランドの営業利益は1100億円ほどですし、サンリオも60億円ほどの利益をあげています。

収益の大半をキャラクタービジネスで得ているわけですから、ミッキーやハローキティなどのキャラクターは莫大な価値を持っていると言えます。

ですから、このように目に見える物理的な実態がなくても、キャッシュを生み出すものは資産としてカウントしておくべきでしょう。なお、無形資産の価値は、前回紹介した割引現在価値を使って求めることができます。

他に、有形ではないけれどもキャッシュをもたらすものとして人的資本があります。エース級の営業マンがいれば、会社の売り上げを増やすことができます。また、優秀な技術者がいれば、ベストセラー商品を発売することができます。

外部に公表はできないけれど・・・

なお、一部を除いて無形資産は財務諸表に載せることができません。つまり、外部向けの資料に価値あるものとして公表することができないのです。

これは、現実的には価値を測定することが困難なためです。収益のうちどこからどこまでが特定のキャラクターや社員の成果なのかを厳密に区切ることはできません。

なので、企業によって評価がブレることがないように、財務諸表に付け加えないことになっています。

とはいえ、実際には利益をもたらしてくれる価値あるものなので、大切にするべき資産であることは間違いありません。

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