よつき経済研究所

航空産業を専門に研究している経済学者の森本裕です。神戸にある甲南大学で教員をしています。このブログは火曜日と金曜日に更新しており、火曜日は「旅行に役立つ航空」について、金曜日は「経済学で身につける思考の技術」について記事を投稿します。また、大学教員ならではということで、今どきの学生気質や大学の裏事情についても不定期で発信します。

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経済学

金融政策はなぜ景気に効くのか?
前回の記事(経済学は不景気を克服できるか?)では、景気を安定させる手法として金融政策があると述べました。では、金融政策で景気を良くするメカニズムは何なのでしょうか?

金融政策について簡単に説明した後に、景気を押し上げる仕組みについて解説します。



昔からの金利操作と、新しい貨幣供給量操作
金融政策は大きく分けて、金利操作貨幣供給量操作の2種類があります。

金利操作とは、短期金利を上げ下げすることで景気を安定させることを目指します。金利操作では、とりわけ、翌日物と呼ばれる1日だけの取引で使われる金利や、中央銀行に預け入れた時の金利が操作の対象となります。

貨幣供給量操作は、(厳密な表現ではありませんが、)銀行が貸し出しや投資に回せる資金の量を調整します。具体的には、銀行が日銀に預けている預金の量を増やしたり減らしたりします。

金を借りやすくして、投資と消費を増やす
では、これらの金融政策がどのようにして景気に効くのかについてですが、金利操作から考えましょう。

まず、短期金利(=変動金利)を下げれば直接的に借り入れがしやすくなります。利息の支払いが軽減されるわけですから、当たり前の話です。

短期の金利が下がれば長期金利(=固定金利)もつられて下がりますので、やはり借り入れがしやすくなります。

金を借りやすくなれば、企業は設備投資を増やすことができますし、個人も住宅の購入が容易になります。これによって、投資や消費という需要を喚起することで、景気を刺激するわけです。

銀行をカネ余りにして、貸し出しを増やす
とはいえ、この金利操作には問題点が1つあります。それは、金利はゼロ以下にはしにくいということです。

近年はマイナス金利政策も導入されつつありますが、銀行の預金や貸出金利はなかなかマイナスにはできません。そんなときに活用されるのが貨幣供給量操作で、量的金融緩和と呼ばれています。

これは、銀行が保有している国債や社債を買い入れることで、銀行に現金を供給するというものです。日銀が銀行から国債や社債を買い取ると、その代金は日銀にある各銀行の口座に振り込まれます。

この口座の預金には金利が付きませんので(量的緩和をするときは既に短期金利がゼロになっている)、銀行にとってみれば「死に金」です。そうすると、少しでも金利を取るために、どこかに貸し付けようとします

銀行の貸し出し姿勢が前向きになりますので、とりわけ信用力の低い中小企業やベンチャー企業にとっては資金調達がしやすくなります。そうすると金利操作の時と同様に、投資が増えて経済が活性化するわけです。

余談ではありますが、少し前に話題になったアパートローンの急増も、貸付先がなくて困った銀行が不動産に融資したということで、根っこは量的緩和にあるのです。

金融政策は、間接的な政策というところが弱点
このように、金利操作も貨幣供給量操作も投資や消費という需要を作り出すことで経済を活性化させることを目的としています。

金融政策は「間接的に」需要を増やす政策なので、政策効果が出るまでに時間がかかること、そして結局のところ金を借りてくれる人がいなければ効果が出ないという限界があります。

その点、財政政策であれば公共事業や減税によって直接的に需要を増やすので、確実かつ迅速に経済を刺激でいるというメリットがあります。財政の悪化という重大な欠陥もありますが。

戦後最長の景気回復
2012年12月から始まる景気回復は73ヶ月に達し、2019年1月には戦後最長を更新する。失業率も直近で2.4
%と歴史的な低水準である。

人手不足を原因として賃金も上昇し、ボーナスの平均支給額は前年比+3.4%の87万円(製造業平均、日経新聞2018年12月11日)となった。非正規社員の給料も上がっており、アルバイトの平均募集賃金は前年比+2.7%の1052円(日経新聞2018年12月13日)である。

このように、正規・非正規を問わず生活の改善は広く行きわたっているが、6年を超える景気回復の恩恵である。好景気の背景には経済政策(アベノミクス)の成功があるが、経済学によって不景気を克服することは可能なのだろうか?



経済政策で不景気に対応できる
経済学が提唱してきた経済政策とはどのようなものだろうか?これは、財政政策と金融政策に大きく分けることができる。

財政政策には、政府支出と減税の2種類がある。前者は政府が支出を増やすことによって、直接的に有効需要を作り出すものである。後者は国民の可処分所得を増やすことを通じて、消費を刺激する方法である。

金融政策は金利の引き下げによって借り入れを容易にし、投資や不動産の購入を活発化させるのが主眼である。

近年は金利がゼロにまで下がってしまったので、量的緩和政策が主な政策手段となった。金融機関が保有していた国債などを日銀が買い取ってしまうことで、その代金を貸し出しに回させようとするものである。それによって、投資が増えることが期待される。
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そもそも不景気というのは需要が不足している状態であるから、上記のような方法で消費や投資を増やせば簡単に解消できるものなのである。逆に言うと、好景気を持続させるのも簡単である。

景気回復は長くても、低成長
ところが、ことは単純ではない。2012年からのGDPの推移を見てみよう。
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2012年7~9月期に497兆円で底を打った後、多少の波があるものの2018年7~9月期には532兆円まで増加した。6年間でトータル7.03%の成長である。年率に換算するとわずかに1.14%だ。

高度経済成長期であれば1年もかからずに達成できた成長を、今は6年かかってようやく実現しているのである。この成長率の低さが好景気を実感できない理由である。

それでは、経済政策で、成長の水準自体を引き上げることは可能なのだろうか?これはほとんどノーである。なぜなら、経済活動の水準は長期的に生産力に依存するからである。

効率よく生産する技術や、事務作業を省力化する仕組みは工学的な革新によってもたらされるものなので、経済学ではどうにかすることはできない。(研究開発を支援するような制度・政策を考案することは経済学の仕事ではあるが。)

景気の安定はできても、高度成長は実現できない
今回の話をまとめると、 「経済学は不景気を克服することはできる」という結論になる。ただし、「景気変動を緩やかにすることができる」がより正確な表現である。

ところが、長期的な成長率自体を引き上げることはほとんど不可能である。この意味では、経済学によって生活水準を急速に改善させることはできないし、せいぜい研究開発を促すような政策を考え出すのがいいところである。やはり、「平均成長率」を引き上げるためには、工学的な技術革新が不可欠なのである。

無形資産とは?
資産の話を続けてきましたが、今回は無形資産についてです(第1回第2回はこちらから)。資産といえばお金や株といった金融資産、建物や商品といった有形資産がイメージされますが、無形で見えなくても価値を有する者もあります。

会計学では資産とは「将来キャッシュを生み出すもの」をすべて指しますから、有形でなくても構いません。では、無形資産にはどのようなものがあるのでしょうか?



目に見えなくても収益をもたらすものはある
無形資産の代表的なものとして、特許・商標権・著作権といった知的財産権があります。サンリオやディズニーは典型的に、著作権で儲けいている企業です。
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東京ディズニーリゾートを経営するオリエンタルランドの営業利益は1100億円ほどですし、サンリオも60億円ほどの利益をあげています。

収益の大半をキャラクタービジネスで得ているわけですから、ミッキーやハローキティなどのキャラクターは莫大な価値を持っていると言えます。

ですから、このように目に見える物理的な実態がなくても、キャッシュを生み出すものは資産としてカウントしておくべきでしょう。なお、無形資産の価値は、前回紹介した割引現在価値を使って求めることができます。

他に、有形ではないけれどもキャッシュをもたらすものとして人的資本があります。エース級の営業マンがいれば、会社の売り上げを増やすことができます。また、優秀な技術者がいれば、ベストセラー商品を発売することができます。

外部に公表はできないけれど・・・

なお、一部を除いて無形資産は財務諸表に載せることができません。つまり、外部向けの資料に価値あるものとして公表することができないのです。

これは、現実的には価値を測定することが困難なためです。収益のうちどこからどこまでが特定のキャラクターや社員の成果なのかを厳密に区切ることはできません。

なので、企業によって評価がブレることがないように、財務諸表に付け加えないことになっています。

とはいえ、実際には利益をもたらしてくれる価値あるものなので、大切にするべき資産であることは間違いありません。

資産とは?負債とは?
資産って何でしょうか?負債ってなんでしょうか?なんとなくは分かっているけれども、明確に答えられる人は少ないのではないでしょうか。

資産というと、何か価値があってできるだけ多く持っていたいもの。負債は借金か何かで、減らしておきたいもの。そういったイメージでしょうか。今回は、企業の財務状況を表す貸借対照表を見ながら、資産と負債について考えていきます。



資産とは、現金と現金になりそうなもの
まず、日本を代表する企業であるトヨタ自動車の資産(2018年3月末時点)を見てみましょう。トヨタ自動車が保有している資産が一覧になっています。
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上の方から見ていくと、現金・定期預金・有価証券と並んでいます。この辺りは分かりやすく資産ですね。

その次は「受取手形及び売掛金」です。これは、お客さんからまだ受け取っていない代金のことです。代金を回収すれば現金が手に入るので、資産として扱ってもいいでしょう。

少し下に行って、「棚卸資産」。つまり、商品の在庫のことです。作ったけれども、まだ売っていない車などの金額が書かれています。

さらに下に行って「有形固定資産」を見ると、土地・建物といった項目が入っています。これらも資産と言われて違和感はないところでしょう。

このように、何らかの価値がありそうなものが資産として扱われています。より正確には、現金もしくは将来現金になりそなものが資産ということです。

そして、すぐに現金にできるものを「流動資産」、現金化するのに時間がかかるものを「固定資産」として大きく2つに分類することができます。

負債とは、将来現金を支払わなければならない義務
続いて負債についてです。
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負債の方は、行も少なくシンプルです。基本的には、借入債務(借金)と未払金だけです。

未払金とは、すでにモノは受け取ったけれども、まだ支払っていない代金のことです。企業間取引では後払いにすることも多いので、仕入れたけれども、代金は払っていないということがよく生じます。

ちなみに、負債の性質は、将来現金を支払わなければならない義務と言えそうです。借金にしても、未払い金にしても、いずれはお金を払う必要があります。

また、支払いの時期が近ければ(一年以内)短期負債、遠ければ固定負債として分類しています。

資産と負債の「価値」はいくら?
今回は、資産・負債とはどのようなものであるかについて勉強しました。次回は、資産・負債の「評価」について考えます。

現金であれば評価額はそのままです。100万円は100万円ですから。しかし、貸付金であれば踏み倒されて帰ってこないリスクもありますので、100万円の貸付でも価値はそれよりも低そうです。また、土地や建物といった実物資産であれば、何らかの形で価値を測定する必要があります。

次回、これらの方法について検討してみましょう。


持って帰るのと、店内で食べるのでは税率が違う
2019年10月に消費税は10%に引き上げられる予定ですが、食料品など一部の品目には8%の軽減税率が適用される見込みです。

ところが、この軽減税率に伴って大きな問題が生じそうです。というのも、食料品には軽減税率が適用されるものの、外食は一般税率になるからです。つまり、購入した商品を店内で食べると税率は10%、持って帰ると8%ということになってしまうのです。




イートインでの飲食を禁止に
そういうわけなので、コンビニのようにイートインスペースがある店では、客がどこで食べるのかを把握する必要が出てきます。あるいは、把握できなければ全て10%とせざるを得ません。

現実的には全ての客の行動を監視するわけにもいきませんし、かといって、10%の税率を適用されてしまうのも不都合です。そこで、「イートインでの飲食を禁止する」という案が出てきました。

財務省は、来年10月の消費税率10%への引き上げ時に導入する軽減税率を巡り、店内に椅子やテーブルを置くコンビニやスーパーなど小売店の対応基準を明確化した。「飲食禁止」を明示し、実際に客が店内で飲食しないことを条件に、店内で販売する全ての飲食料品(酒類除く)に8%の軽減税率を適用する。

毎日新聞2018年10月4日より


これであれば、客の行動を監視しなくて済むうえに、税率も8%にしてもらえます。とはいえ、飲食禁止の「イートイン」とは意味不明です。

軽減税率に反対する
軽減税率には、
・対象品目の線引きが難しいこと
・対象品目の選定が恣意的になること
・実務上の取り扱いが困難になること
といった問題点があります。

外国の事例では衣類を軽減税率の適用とすることがありますが、高級衣料まで税率を低くするべきでしょうか?仮に高級品を対象外とするにしても、どこからが高級品なのでしょうか?この線引きをすることは大変です。

また、対象品目を決めるにあたって、役人の判断が恣意的になる懸念もあります。場合によっては、賄賂などの不正が発生しかねません。

そして最後に、「イートインでの飲食禁止」のように実務的な不都合が生じる問題があります。

このように、軽減税率には問題が多すぎるため、ヨーロッパでは廃止が検討されているくらいです。何も、日本が今から導入することはありません。

逆進性を緩和するひつようがあるなら、所得税や相続税の累進性を高めれば済むことです。消費税は単一税率にしておくべきです。



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