よつき経済研究所

航空産業を専門に研究している経済学者の森本裕です。神戸にある甲南大学で教員をしています。このブログは火曜日と金曜日に更新しており、火曜日は「旅行に役立つ航空」について、金曜日は「経済学で身につける思考の技術」について記事を投稿します。また、大学教員ならではということで、今どきの学生気質や大学の裏事情についても不定期で発信します。

経済学に関心がある方は、ホームページ(https://yotsuki-compass.com/)にもお越しください。ツイッター(https://twitter.com/yotsuki_compass)でも最新ニュースに経済分析を加えています。

交通経済

衰退する公共交通
2018年3月のダイヤ改正でJR西日本の三江線が廃線となりました。JR北海道も維持不可能な線区を公表するとともに、不採算路線の廃線を進めています。バス路線の廃止も進んでおり、地方の公共交通をどのように維持するかが全国的に課題になっています。今回は、経済学の概念を使いながらこの問題を検討してみましょう。

3行要約
・国と自治体に交通政策を実施する義務が課された
・「内部補助」では赤字路線はますます不便に
・税を使った「外部補助」に切り替えることが必要


利便性低下と利用減の悪循環
人口減と自動車社会化を背景として、地方では公共交通が衰退してきました。需要の減少に対応し、運行本数の削減や料金の値上げも進みました。利用者の減少によって公共交通が不便になり、より一層利用する人がいなくなるという悪循環に数十年来見舞われています。

このような状況にあって、2013年に交通政策基本法が制定されました。

第一条
この法律は、交通に関する施策について、基本理念及びその実現を図るのに基本となる事項を定め、並びに国及び地方公共団体の責務等を明らかにすることにより、(中略)、交通に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、もって国民生活の安定向上及び国民経済の健全な発展を図ることを目的とする。

とあるように、国と自治体はそれぞれの責務を全うし、国民生活と経済のために交通政策を策定することとなりました。

内部補助による赤字路線の維持
現在の公共交通の問題の根源は、民間企業に赤字路線の運行をさせていることにあります。黒字路線を独占的に運行することを認める代わりに、赤字路線から撤退しにくくするという仕組みです。企業の内部で黒字路線から赤字路線に補助を出しているので、これを「内部補助」といいます。

営利企業としてはできるだけ不採算路線の赤字を増やしたくはありませんので、撤退できない以上は、運行を縮小させざるを得ません。その結果、一日に数本などという実質的に使い物にならない運行形態になってしまいます。「内部補助」という仕組みが地方路線の衰退を加速させる原因となっているのです。

また、内部補助には、黒字路線の利用者が赤字路線のためにどれだけ負担しているか見えないという問題もあります。

赤字でも必要なものはある
赤字であることを悪とする風潮がありますが、赤字であっても必要なものはあります。典型的には教育で、人材育成のために授業料で不足する分は税金を投入して補っています。交通であっても同様に、住民の生活に必要不可欠なのであれば税金を使って維持すべきです。

税金によって最低限の利便性を維持しながら、そのために要した負担の額を明確化することができます。負担が明確になれば、どこまでを維持すべきなのかを議論することも可能になります。

ユニバーサルサービス料の導入
財源が不足して税の投入ができないのであれば、ユニバーサルサービス料の導入も検討すべきでしょう。ユニバーサルサービス料というのは、全国どこでも最低限の生活をできるようにするために全ての利用者が一定の金額を負担するという仕組みです。通信でも導入されていて、電話であれば1回線当たり毎月3円ほど徴収されています。

全ての公共交通の利用者から一定の金額を徴収し、それを地方の路線を維持するために活用しようというわけです。この仕組みであってもやはり負担は明確化することができるというのは、一つのメリットです。

内部補助から外部補助に
税金の投入にしてもユニバーサルサービス料にしても、企業の外部から補助金を導入するという点でともに「外部補助」といいます。内部補助から外部補助に転換することによって、不採算であった路線も維持が可能になります。もちろん、どこまでを維持するか議論することも必要です。

なお、補助を外部化すれば黒字路線の収益を赤字路線に回す必要がありませんので、黒字路線に競争を導入することも可能になります。これによって、黒字路線の利用者は運賃の引き下げやサービスの向上といった恩恵を受けることもできるようになります。


OAGが国際線のランキングを発表
OAGが2017年の国際線ランキングを発表しました。最新の航空市場の動向を踏まえながら、大きく育った大阪-ソウル線を詳しく見ていきます。

なお、特段の断りがない限り、データの出典はOAGの「Key facts behind the world's 20 busiest routes」です。

3行要約
・世界一はシンガポール-クアラルンプール線
・訪日需要を受けて、大阪-ソウル線は大躍進
・伝統あるニューヨーク-ロンドン線も16位



1位はシンガポール-クアラルンプール線
国際線における発着回数のランキングで栄えある1位を獲得したのは、シンガポール-クアラルンプール線です。年間の発着回数は30,537回で、1日あたりでは片道42便が飛んでいる計算です。概ね20~30分おきに出発しているといったところでしょうか。

マレーシアは一人当たりのGDPが10,000ドルを超えており、発展途上国を脱して中進国になっています。クアラルンプールは石油関連をはじめとしてビジネスの拠点としての地位を高めています。

シンガポールは言わずと知れたASEANの拠点国で、東南アジアのビジネスセンターです。グローバル企業も多数立地しています。チャンギ国際空港はハブ空港としての地位も高く、欧米はもちろん、アフリカやオセアニアへの乗り継ぎも便利です。

距離的にも300キロと近い都市同士ですので、ランキング1位に輝くのも納得の路線です。
rgwr

2位は中華系の地域同士
第2位になったのは、香港-台北線です。年間の飛行回数は28,887便、1日あたりでは片道40便程度です。
こちらは共に中華系の地域で、資本主義を採用しているのが共通点です。自由な経済活動が可能とあって、経済的なつながりは強いようです。

正式名称が中華民国である台湾は歴史的に本土からの独立心が強いところですし、香港も独立運動が盛り上がるなど本土とは一定の距離を取っています。こういった政治的な親近感も相互の交流を促しています。

第3位はシンガポール-ジャカルタ線です。年間の飛行回数は27,304便、1日あたりでは片道37便程度です。ジャカルタは人口2.6億人を抱えるインドネシアの首都で、都市圏人口は3,000万人を超えています。この路線は人口の多さが貢献しているようです。

以下、4位香港-北京線(21,888回)、5位ジャカルタ-クアラルンプール線(19,849回)と続いています。


急成長の大阪-ソウル線は第6位
そして、第6位に大阪-ソウル線がランクインしました。年間17,488便で、1日あたりでは片道24便です。旅客数は300万人弱もあり、需要の強さがうかがえます。
sfgghghdj
5年平均の成長率は16%で、2012年比で2.1倍に拡大しています。インバウンドブームの波に乗っていることは明らかで、難波や京都のそこかしこから韓国語が聞こえてくるのも無理はありません。今後も成長を続ければ、より上位にランクインすることは間違いないでしょう。

航空会社ごとのシェアを見てみましょう。1位と2位は韓国のフルサービスキャリアのアシアナ航空と大韓航空です。以下は韓国系のLCCが続いていますが、5位だけは日本のPeach Aviationです。
farfgthw
残念なのはこの路線にJALもANAも就航していないことで、世界6位の需要をみすみす放棄してしまっていることです。

続いて機材を見ると、B737とA320シリーズで全体の71%を占めています。LCCは基本的にこのどちらかを使用していますので、違和感はありません。
nnrrye
B777が15%となっており、大型機も一定程度の存在感を維持していることが分かります。こちらは、フルサービスであるアシアナや大韓が飛ばしています。新型機のB787とA350はほとんど飛んでいません。今後、投入されることに期待しましょう。

台湾や韓国の路線がランクイン
日本が関係する路線では、他に大阪-台北線が15位に、東京(成田)-ソウル線が18位に入っています。訪日需要が今後も順調であれば、ランクアップや新たな路線のランクインが期待できそうです。

他に注目すべき路線は、16位のニューヨーク(JFK)-ロンドン(ヒースロー)線です。短距離路線が上位に顔を出す中、大陸間移動の長距離路線として唯一のランクインです。イギリスとアメリカのつながりが今でも強いことがあらためて確認できる結果です。


ANA・JALがともに長距離LCCに参入
ANAとJALが相次いで長距離LCCへの参入を表明しました。以前よりANAはPeachとVanillaが、JALはJet StarがLCC事業を展開していましたが、ともに4時間圏内の短距離路線のみの運航でした。ここにきて、なぜ長距離の市場に参入するようになったのでしょうか?

3行要約
・LCCは短距離に向いている
・競争から逃れるため、長距離に進出
・観光都市やリゾート地が就航候補




LCCは短距離向けのビジネスだった
LCCは本来、短距離向けのビジネスです。エアアジアは短距離線からスタートし、その後、長距離専門のエアアジアXを設立していますし、ライアンエアは世界最大のLCCでありながら現在でも短距離路線にしか就航していません。

LCCが単距離向きである第一の理由は、効率的な運航のために機材を単一の小型機に統一していることです。少ない定員の小型機を使用して空席を減らすとともに、機材を統一することでパイロットや整備士の訓練コストを削減します。小型機は燃料積載量の関係上、数千キロまでしか飛ぶことができないので、おのずと路線は短距離のみになります。

低価格実現のためにシートピッチを狭くしているのも、長距離に向かない理由です。飛行時間が数時間程度であれば座席が狭くても我慢できますが、さすがに長い時間は耐えられません。座席を広くするとコストが上がってフルサービスキャリア(FSC)との差別化ができなくなりますので、路線は客が狭い座席に耐えられる距離に限定されてしまいます。

また、ノンフリルサービスもLCCの特徴ですが、長時間のフライトでは食事や飲み物が必要になってきますので、やはりノンフリルを維持できなくなります。

このように、小型の単一機材・狭い座席・ノンフリルサービスといったLCCの特徴はすべて、短距離路線で効果を発揮できるものばかりです。

短距離線は飽和状態
では、なぜここにきてLCCが長距離化しつつあるのでしょうか?その最大の理由は、短距離の市場は飽和してしまい競争が激しくなったからです。

大阪(関西)-ソウル(仁川)線を見てみましょう。訪日観光ブームの影響もありますが、一日に24便が飛んでいます。FSCのあしあアシアナ・大韓をはじめ、LCCはジンエアー・チェジュエアー・ピーチ・イージージェット・テーウェイ・エアソウルと各社入り乱れています。
farfgthw
OAG調査 2018年

供給量もここ5年で2.1倍に増えており、競争環境がかなり悪化しています。短距離路線は参入しやすいこともあって、どこも厳しい競争にさらされています。ですから、他社が参入していない都市をめざして長距離に進出するわけです。

「狙い目」の長距離路線は?
長距離LCCの構想は発表しましたが、ANA・JALともに具体的な都市名には言及していません。どういった都市が候補として考えられるでしょうか?

ビジネス客を中心とする高単価客は高サービスを求めますので、引き続きANA・JAL本体の顧客となるでしょう。そうすると、やはりLCCは観光といった支払意志額が低い顧客セグメントを担当することになりそうです。

長距離で観光客に人気の場所ということで、パリ・ロサンゼルス・シドニーといった街やハワイ・バリ・プーケット・ケアンズなどのビーチリゾートが候補になりそうです。

観光地を一通り網羅した後は、需要が大きい世界の大都市に向けて就航するかもしれません。この場合、エアカナダルージュのようにサービス水準をやや高くして一部のビジネス客を取り込む可能性もあります。

いずれにしても、日本のLCC市場は新たな領域に入っていきますので、今後の展開に期待したいところです。




一緒になった阪急と阪神
かつて、阪急と阪神は別の会社でしたが、2006年に経営統合しました。いまは、阪急阪神ホールディングス(阪急阪神HD)という会社が阪急線・阪神線の両方を運営しています。

この記事では、神戸市内の移動がお得になる企画乗車券「神戸の休日」を例として、阪急と阪神の経営統合の効果を見たいと思います。




40%以上も安くなる「神戸の休日」きっぷ
はじめに「神戸の休日」きっぷの紹介からです。神戸の私鉄は、中心部の東側は阪急、西側は神戸高速鉄道と会社が分かれています。なので、普通に乗ると初乗り運賃が2回かかって割高になります。これを解消しようというのが「神戸の休日」なのです。
koube-kyujitu

神戸高速鉄道も阪急阪神グループ入り
阪急電鉄はみなさんご存知と思いますが、神戸高速鉄道はマイナーなので改めて紹介しておきましょう。

むかし、神戸市を起点とする鉄道会社はそれぞれ別の場所にターミナルを構えていました。なので、相互に行き来することができずに、非常に不便だったのです。それをつなぐために建設されたのが神戸高速鉄道で、神戸市と私鉄が資金を出し合いました。
KobeKosokuMap(150dpi)
みんなで「少しづつ」資金を出したので、特にどの会社にも属していなかったのですが、阪急と阪神が合併したことにより状況が変わりました。両社の株を合わせて50%以上になったので(神戸市からも一部を売ってもらいました)、阪急阪神HDの子会社になったのです。

これで阪急阪神HDは、神戸高速鉄道に経営陣を送り込めるようになりました。長くなりましたが、ここまでが前置きです。

個別最適から全体最適へ
このような経緯があって、阪急・阪神・神戸高速鉄道は一体的に経営されています。なので、運賃の調整をしながら全体の利益を考えられるようになりました。そういうわけで実現したのが、最大割引率42.3%の「神戸の休日」きっぷです。

ちなみに阪神版もあって、こちらも最大40%OFFです。
koube

解消された二重独占

最後に、この企画乗車券の経済学的な意味合いを考えておきましょう。

企業の数が少ないとき、「不完全競争」という問題が生じます。競争をする必要があまりないので、価格を高く設定できます。これによって、一部の人が電車を利用しなくなってしまう、つまり需要が抑制されてしまうのです。

そしてこの問題は、消費者が2社を利用しなければならないとき、より深刻なものとなります。専門的には「二重独占」といいますが、初乗り運賃を2回払わないといけないので非常に割高になるというイメージです。

阪急・阪神・神戸高速鉄道の経営統合により、二重独占が解消されました。そして、格安の企画乗車券が発売されたことにより、新たに鉄道を使って移動する人が増えました。これが、経営統合の経済学的な便益です。

鉄道激戦区の関西
京阪神は鉄道会社の競争が激しい地域として有名です。大阪-京都はJR・阪急・京阪、大阪-神戸はJR・阪急・阪神とそれぞれ3路線が並行して走っています。(ただし、阪急と阪神は同一企業による運営)

各社とも乗客をライバルにとられないようにするため、運賃を工夫しています。京阪間での鉄道競争に着目し、経済的な効果を考えます。




JR v.s. 阪急 v.s. 京阪
まず、大阪-京都間の鉄道路線を確認しましょう。JRと阪急は、淀川の右岸をほぼ同じ経路で走っています。京阪は京都と大阪を結ぶのは他社と同じですが、途中の経路は淀川の左岸です。
LineMap_OsakaKyoto
この位置関係が、各社の運賃に現れてきます。


競争を意識した京阪の運賃表
京阪の運賃表を見て分かることは、近距離は高く、長距離が安いということです。17キロで310円まで運賃が上がりますが、そこからは54キロまで乗っても420円にしかなりません。
keihan
「競争があるところは安く、ないところは高く」が基本ですが、まさにそうなっています。大阪-京都間はライバルがいるので安くしなければなりません。京橋-七条が44.0キロですが、40~50キロ程度を乗車する客からは、400円ほどしか徴収していません。

これに対して、路線の中ほどにある寝屋川市や枚方市には、京阪しか走っていません。(JR学研都市線はかなり外れを通っている。)なので、乗車距離が20キロ程度でも300円超の料金設定になっています。

関西で一番安い阪急電車
阪急は、神戸線も含めてほぼJRと並走しているため、全区間で割安な運賃設定になっています。
hankyu

例えば10キロ乗車するとき、京阪であれば270円のところ阪急は220円です。20キロで比較しても京阪の330円に対して280円です。このように、中短距離でも安価な運賃になっています。

ちなみに、競合する大阪市内-京都市内は京阪・阪急とも400円で同額です。

JRは割引運賃で対抗
JR西日本は運行線区が多いため、基本となる運賃テーブルとは別に、競争区間には特定運賃を設定しています。大阪-京都は42.8キロなので、基本の運賃は760円です。しかし、このままでは競合の400円と比べてあまりにも高すぎるので、特定運賃として560円としています。

さらに、これでも割高感があるため昼特きっぷを発売し、1回あたり350円で乗車できるようにしています。(平日は10-17時・土休日は終日利用可)

当たり前だけれども、競争でモノは安くなる
このように、競争の経済的な効果として、価格が低下するということが確認できました。もちろん鉄道以外であっても、競争があれば価格は下がります。いろいろな事例を見つけてみるのも、おもしろいと思います。



↑このページのトップヘ