よつき経済研究所

航空産業を専門に研究している経済学者の森本裕です。神戸にある甲南大学で教員をしています。このブログは火曜日と金曜日に更新しており、火曜日は「旅行に役立つ航空」について、金曜日は「経済学で身につける思考の技術」について記事を投稿します。また、大学教員ならではということで、今どきの学生気質や大学の裏事情についても不定期で発信します。

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産業経済

IRにカジノが必要な理由
さて、ながながとカジノについて書いてきましたが、今回が最終回です。IRを誘致すると世界の要人・エリートが集まるので都市としての格が上がること、そのためには会議場とリゾートが必要であることを説明しました。

実際のところカジノは本質的に必要ないですし、カジノがなくても上記の主目的は達成可能です。にもかかわらず、IRにはカジノが併設され、カジノを認めるための法案も作られています。IRにおいてカジノが果たす役割、そしてカジノが必要とされる理由とは何なのでしょうか?

3行要約
・カジノはIRの収益の中核
・カジノの収益を使って、IR全体を建設する
・カジノからは兆単位の税収が得られる



カジノは高収益
まずなによりも、収益力の大きさがカジノの特性です。どこのIRであってもカジノが占める面積は全体の数パーセントにすぎませんが、収益の大部分はカジノによって稼ぎ出されています。マカオのIRではカジノが全収益の80%を生み出しているとされています。

狭い空間を効率的に使って巨額の収益を得るというのがカジノの特性なのです。この収益がIR事業者にとっても政府にとっても不可欠なのですが、その理由を見ていきましょう。

カジノの利益が投資の源泉
IR事業者のビジネスモデルは下図のようになっています。
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出典:時事ドットコム

大規模なIRの建設費は全体で1兆円ほどですが、これを賄うのがカジノの収益です。巨額の収益が期待できることによって銀行から融資を受けやすくなったり、株式や債券で市場から資金調達をしやくすくなったりします。

逆に言うと、カジノがなければ資金が集まらないので、会議場やホテルといった施設を建設することができなくなります。

税収効果も抜群
そして、政府にとってもカジノは直接恩恵をもたらすものです。マカオの事例を紹介すると、

ゲーミング(カジノ)税収は17.9%増の857億5070万パタカ(約1兆2037億円)で、予算執行率は119.3%。歳入に占めるゲーミング税の割合は79.8%。
出典:マカオ新聞(2018年1月2日)

とあるように、税収の大半はカジノから得ています。金額でいっても1.2兆円と巨額の財源です。

観光に特化したマカオと違って、日本は大きな国なので主要な財源とすることはできませんが、それでも兆単位の財源となれば国庫を潤すことは間違いありません。

カジノは日本人にとっても有益なもの
カジノの収益性の高さは、IR事業者のとっても政府にとってもかなり魅力的なものです。

仮に政府が真に誘致したいものが会議場やリゾート部分であったとしても、これらはカジノの利益を使って建設されるので、カジノ抜きでは実現できません。

また、財政赤字が積み重なっている日本にとって、カジノからの税収は非常に手に入れたいものです。もしも主たるカジノのプレーヤーが外国人になったとすれば、外国人の税負担で日本の財政赤字が改善するわけですから、日本人にとってはこの上なくありがたいものです。

以上6回にわたってIRについて書いてきました。筆者としては大阪がIRの誘致に成功して、世界から人々が集まる観光拠点に成長していってくれることを楽しみにしています。


カジノはギャンブルであってギャンブルにあらず
ここまで、「大阪にカジノがやってくる」というタイトルを使いながら、IRのカジノ以外の部分の話ばかりでした。今回はようやくカジノの話に入ります。

カジノはギャンブルであるという認識は正しいのですが、パチンコや競馬とは違った遊び方や客層を対象としています。IR事業者がどのようなカジノ像を持っているのかについて説明していきます。

3行要約
・カジノは大人の社交場
・カジノは「非日常」を楽しむ場所
・パチンコのように入りびたることは想定されていない



非日常としてのギャンブル
駅前にパチンコ屋があって、タバコをくわえたおじさんが入り浸っているというのはよくある光景です。街中に堂々と賭博場がというのは世界でもなかなかありません。

競馬・競輪・競艇も入場料は安いですし、投票権だけなら街中でも買うことができます。日本では街のあらゆるところにギャンブルがあふれており、日常の中に溶け込んでいます。なので、われわれ日本人にとってはギャンブルは「お手軽なもの」という認識になっています。

ところが、IRの事業者はカジノを「非日常的」なものとしてとらえているようです。出張や旅行に行ったついでに「運だめし」として楽しむであるとか、気分転換としてプレーするとか、そういった扱いをしています。

ですから、政府のIR法案に入場料が6,000円と定められても、事業者から特段大きな反発はありませんでした。たまに遊びに行く程度のことですから、入場料の負担は大きくないということです。

責任あるプレーヤー
IR事業者は「責任ある」という用語を使って、客にプレーしすぎないように注意しています。シーザーズ・エンターテインメントであれば、

皆様に純粋に娯楽のためのゲーミングを楽しんでいただきたいと思っています。責任あるゲーミングができない場合、シーザーズの施設を含めどの施設でも歓迎しかねます。
引用:シーザーズホームページ(https://www.caesars.co.jp/our-commitment-jpn

とあるように、IR事業者は後先考えずにプレーする客は受け入れない考えを示しています。ドレスコードを定めているカジノもあり、理性ある紳士・淑女を顧客として想定しています。
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生活費をつぎ込んで頻繁にやってくるような人はお断りで、入場管理システムを使ってそのような客は入れないようにしています。カジノは、ちょっとした刺激、気分転換、あるいは社交を求める大人の遊び場だというのが正しい理解です。


なぜリゾート部分が必要なのか?
前回の記事では、政府も自治体も欲しいのは会議場であるという話をしました。だったら、会議場だけで十分ではないかということになるのですが、今回はなぜリゾートが付随部分として必要なのかを説明していきます。

3行要約
・エグゼクティブも、仕事のついでに遊んで帰りたい
・家族連れで出張することも
・リゾートと会議場は相性が良い




観光地開催は人気がある

会議場で国際会議が開かれれば世界中から要人・エリートが集まってきますので、経済効果が大きいとともに都市としての格も上がります。そういうわけなので、自治体は何としても大規模な会議場が欲しいのです。

とはいえ、なぜ会議場だけでなく、カジノ・商業施設・劇場といったリゾート部分が必要なのでしょうか?これらは少なくとも仕事とは関係なさそうです。この疑問に答えるためには、ビジネスマンが参加したくなる開催地がどのような場所であるのかを理解しなければなりません。

ニューヨーク・東京・ロンドンといったところで開催したところで、便利ではありますがわざわざ参加しようという気にはなりません。表向きはビジネスであっても、出張の目的の半分は息抜きですから、ビル街に行っても楽しくありません。

そこで、より多くの参加者を集めるために、大規模な会議はリゾートや観光地で開催されることも多いのです。国内での開催件数ランキングはさすがに東京が1位ですが、2位以下は福岡・京都・神戸と続きます(日本政府観光局、2016年)。

ハワイも開催地としては人気で、巨大な会議場が多数整備されています。なかでも、ハワイコンベンションセンターは20,000平方メートル規模の会場を持っており、数万人レベルの会議にも対応可能です。
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付き添いの家族も楽しめる場所
ショッピングや娯楽が必要なもう一つの理由は、家族も出張についてくることが多いことです。日ごろは仕事が忙しくて家族サービスをなかなかできないビジネスマンにとって、出張は家族を楽しませる絶好の機会です。日本人にはなじみがありませんが、欧米人にはこのような考え方を持っている人が多数います。

ですから、仕事のあいだ家族がゆっくりと楽しめる場所が会議場として人気があるのです。ディナーは夫婦で参加というのも、よくあるパターンです。

ビジネスだけではなく、遊ぶ場所が必要だ
このように、出張のメインはビジネスであったとしても、仕事以外の時間を楽しむためにリゾート部分が必要です。仕事も余暇も充実できる場所として認知してもらえれば出張先に選ばれますし、より多くの参加者を会議に呼び込むことができます。

大規模な会議場を活かすためにも、遊ぶ場所の充実が欠かせない のです。


IRは永続的な恩恵をもたらす
政府も自治体も欲しがっているIR(統合型リゾート)ですが、どのようなメリットがあるかについて引き続き解説します。前回は建設投資による恩恵という波及的な恩恵について書きましたが、今回は開業後にIR自体から得られるメリットについて書いていきます。

3行要約
・会議に世界の要人が集まる
・都市のビジネス環境が改善する
・1万人規模の雇用創出が見込まれる




会議があれば世界から人が集まる
IRは統合型のリゾートですから、カジノ以外にもホテル・商業施設・遊園地といった施設がありますが、何よりも重要なのは会議場です。大規模な会議場があれば世界中から要人やトップエリートがやってきますので、都市のブランド力が向上するとともに、国際的な認知度も一気に上がります。

国際自動運転システム協会(Association for Unmanned Vehicle Systems International)が主催するエクスポーネンシャル2018年を例に見てみましょう。アメリカのデンバーで4日間にわたって開催される見本市で、725社の出典と7,500人の参加が見込まれています。
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自動運転技術の会社から社長や役員がゲストスピーカーとして招かれたり、あるいは大学の教授が講演することもあります。もちろん、商談のために部門の責任者や役員クラスが世界中から集まってきます。

会議や展示会が開催されればその都市に情報が集まりますから、ビジネスの環境も改善します。企業の拠点が設置されるとかベンチャーが増えるといったことを通じて、より都市が活性化することにつながります。

巨大な雇用創出効果
IRはホテルや商業施設も抱えているので多くの雇用が創出され、諸外国の事例を見ても1万人以上が働いています。従業員数を基準とすると大企業の定義が300人以上ですから、IRが来るだけで大企業30社分以上の効果があるのです。
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また、これらの経済活動の活性化に伴って税収も増えますから、IRが来ることによって立地都市は多大な恩恵を受けることになることが分かります。


政府も自治体も熱心に誘致
さて、IR(統合型リゾート)についての第2回です。法案を成立させようとしている政府はもちろんのこと、各自治体も誘致に熱心です。IRが来ることによって、日本や地域にどのようなメリットがあるのでしょうか?今回は、IRのよるメリットのうち建設投資によって生じるものについて書いていきます。

3行要約
・IRの投資は1兆円規模
・鉄道の整備も計画される
・IR利用者以外にも、恩恵は幅広く及ぶ




巨額の建設投資
IRの誘致が決まれば、本体部分はもちろんのこと、アクセスなど様々な建設プロジェクトが一気に動き出します。
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出典:日本経済新聞2018年4月29日

大阪への進出に関心を示しているIR事業者は、上表のように軒並み1兆円規模の投資を表明しています。これだけの投資が行われれば、建設会社やその作業員は大きな恩恵を受けることでしょう。

さらに、作業員の賃上げや雇用増加によって消費が増えますので、周辺の飲食や物販といった商業にもいい影響があります。これは、マクロ経済学における「ケインズ効果」と同じです。

鉄道の整備も動き出す
さらに、長年計画どまりだった鉄道の建設計画も現実のものとなります。現時点では、地下鉄中央線とJR桜島線の延伸が予定されています。
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出典:産経新聞2014年9月18日

IRの予定地は夢洲ですが、桜島線は舞洲も経由する予定になっています。舞洲には舞洲スポーツアイランドといったスポーツ施設も多く、大会が開かれる際には多くの来訪者がいますが、現在はバス輸送に頼っています。
IRをきっかけとして鉄道が建設されれば、これらの利用者にとってもアクセスが便利になります。

幅広い恩恵が期待できる
このように、IRを引き金に建設投資が行われれば、幅広く恩恵が及ぶことが分かります。この、波及効果こそが政府や自治体が熱心に誘致活動を繰り広げる理由なのです。

今回は建設投資という波及的なメリットについて説明しましたが、次回はIR本体からの恩恵について書きます。


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