よつき経済研究所

航空産業を専門に研究している経済学者の森本裕です。神戸にある甲南大学で教員をしています。このブログは火曜日と金曜日に更新しており、火曜日は「旅行に役立つ航空」について、金曜日は「経済学で身につける思考の技術」について記事を投稿します。また、大学教員ならではということで、今どきの学生気質や大学の裏事情についても不定期で発信します。

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金融

前日比マイナス0.3%で買い入れ確率大
日銀のETF買い入れは、TOPIXが前日よりも一定以上下がったときに実施されるといわれていますが、権利落ちで株価が下落した場合でも買い入れはあるのでしょうか?

日銀は量的金融緩和の一環として、ETFを通じて年間6兆円程度の株式を買い入れています。この買い入れは、株価が前日よりも下がったときに行われる確率が高いのですが、前もって決められたラインがあるわけではありません。

日経予測ドットコム」さんが過去の事例から求めた買い入れ確率は下のようになっています。
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前場の株価が前日比で0.3%以上下げると買い入れ確率は3/4ほど、0.45%以上下げるとほぼ確実になっています。




実質下げなくても、ETF買い入れ
2018年9月26日は、3月期決算企業の中間配当の権利落ち日でした。この日の前場の下げ幅は0.70%でしたが、このうち0.67%は権利落ち分です。なので、実質的な下げは0.03%です。

もし、日銀が権利落ち分を考慮しているのであれば、買い入れは行われないレベルですが、実際には703億円の買い入れがおこなわれました。

このことから、日銀は権利落ちを除いた実質的な下げではなく、実際の下げに連動して買い入れをしている可能性が高いことが分かりました。日銀トレードをしている方も多いかと思いますが、ETF買い入れパターンを把握して相場で勝っていきましょう。

黒田総裁の異次元緩和とは何だったのか?
黒田総裁の金融緩和の目的と効果は?日銀の総裁は黒田東彦氏ですが、就任以来進めてきた金融政策とは何だったのでしょうか?

まず第1回は、これまでの金融政策を時系列で追っていきます。第2回は、それぞれの政策の目的と結果を検討します。第3回は、金融緩和が抱える副作用を分析したうえで、これから取るべき政策について提言します。




バズーカーから、戦力の逐次投入へ
前任の白川総裁の頃から金融緩和は実行されていましたが、2013年3月に総裁が黒田東彦氏になってから、金融政策は極めて緩和的になっています。日銀のホームページで公開されている資料を元に、

2014年4月4日(緩和第1弾)
・マネタリーベースを年間約60~70兆円増加させる
・長期国債の保有残高を年間50兆円増加させる
・ETFの保有残高を、年間1兆円増加させる

2014年10月31日(緩和第2弾)
・長期国債の保有残高を年間約80兆円増加させるETFの保有残高を、年間約1兆円増加させる
・ETFの保有残高を、年間3兆円増加させる

2016年1月29日(緩和第3弾)
・日本銀行当座預金に▲0.1%のマイナス金利を適用する

2016年7月29日(緩和第4弾)
・ETFの保有残高を、年間6兆円増加させる

2016年9月21日(修正1回目)
・10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行う

2018年7月31日(修正2回目)
・10 年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行う。その際、金利は・・・ある程度変動しうるものとし・・・弾力的な買入れを実施する。

黒田総裁は初回の緩和時に、自らの政策を「異次元緩和」と評すとともに、全力を出し切ったことを明言しました。戦力の「逐次投入」はせず、できることはやりきったと発言したのです。

ところが、緩和の成果がなかなか上がらず、インフレ率が高まらなかったため、追加緩和=戦力の逐次投入を強いられることになります。ETFの購入は当初の6倍に、短期金利はマイナスにすることとなりました。2016年中頃までに、3回も政策を変更しています。

緩和の長期化と持久戦
金融緩和も3年が経過したころから、その「持続可能性」が問題になってきます。当初は2年間という短期決戦の予定でしたが、戦果が出なかったため、持久戦へと進んでしまったためです。

日本政府は1000兆円以上の国債を発行しているとはいえ、毎年80兆円もの買い入れを続ければ「売り切れ」になってしまいます。そこで、買い入れ額を調整する必要が出てきました。
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日銀の長期国債保有残高 単位:兆円

それが、2016年9月21日の修正1回目です。政策の目標を「量」から「金利」に戻したのです。80兆円の買い入れにはこだわらず、長期金利をゼロに張り付けることを目標としました。結果、買い入れ額は減少し、2017年度は国債保有残高が50兆円しか増えていません。

長期金利をゼロに張り付けることにしたものの、あまりにも市場機能を損なうということで、若干の柔軟性を持たせることにしたのが2018年7月31日の修正2回目です。0.2%程度までは金利の上昇を認めることとし、実体経済に応じて金利が変動できるようにしました。

なお、市場機能の回復だけではなく、銀行が国債で運用できるようにとの配慮も込められています。



国際を買い続けて5年が経過
黒田東彦(くろだ はるひこ)氏が日銀総裁に就任してから、5年間にわたって金融緩和を続けています。その一環として、国債を買い入れています。

日銀は何のために国債を買うのか?それによって、経済がどう変わるのか?について解説します。




国債とは?
まず、「国債とは何か?」というところからですが、国債とは国が借金をするときの証書のことです。この証書を持っている人は、期限が来れば、国からお金を返してもらうことができます。

ここでポイントは、国は「証書を持っている人」に借金を返すというところです。国民の側から見ると、証書を持っていれば、将来お金を受け取れるということになります。なので、証書自体が価値を持っていると言えますし、売買の対象にもなります。

国債価格と利回りの関係
国債は売買できると書きましたが、いくらで売買されるのでしょうか?例として、10年後に100円返してもらえる国債を考えましょう。

価格を計算するための式はややこしいので、結果だけをグラフにしました。利回りが0%なら100円、1%なら91円、2%なら82円、3%なら74円といったところです。
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細かいところは気にしなくてもいいですが、知っておいて欲しい点は、国債価格が高いほど利回りが低いということです。どのみち10年後に100円になるのであれば、いま安く買えた方が儲けが多いというイメージです。

見出し
さて、ここからがようやく本題です。日銀が国債を買えば何が起きるのでしょうか?

価格は需要と供給によって決まるので、日銀が国債を買えば国債価格は上がっていきます。すると、先ほど書いたように、国債の利回りは下がります。これが日銀の狙いで、国債の利回りを下げるために、国債を買っているのです。

利回りが下がれば、国債を持っていても大きな利益を得られなくなります。なので、投資家は国債を保有するのをやめようとします。

また、銀行の金利も国債利回りに連動しています。なので、国債の利回りが下がれば、銀行の金利も下がります。そうすると、一般の人々にとっても、銀行預金から利益が得られなくなります。

預金で儲からないなら、投資や消費を増やす
国債や銀行預金から利益が得られないとなると、投資家や国民はどうするでしょうか?

1つ目の可能性は、貯金をするのをやめるということです。将来のために貯金をしたところで、大して利益が出ないのであれば、いま使ってしまおうと考える人もいるでしょう。すると、消費が増えるので、景気を押し上げることになります。

2つ目の可能性は、企業であれば自ら工場を建てるかもしれません。お金を置いておいても金利を得ることができないので、それならば、商品を作って売った方が儲かるというわけです。この場合も、投資が増えることで経済が活発になっていきます。

金利が下がれば、お金を借りやすい
最後に、お金を借りる側の視点から考えます。銀行の金利が下がると、お金を借りやすくなります。なので、ローンを組んで住宅や自動車を購入する人が増加します。これもやはり、経済活動を押し上げます。

以上のように、日銀が国債を買えば利回りが下がり、その結果として投資や消費が増えることが分かりました。投資や消費が増えれば経済が活性化し、景気も改善していきます。これが、日銀が国債を買い入れている理由なのです。



ESG投資とは
投資家にも倫理的な責任が求められるようになり、環境(Environment)・社会(Social)・統治(Governance)に配慮するESG投資が広まっています。これによって、環境を破壊する企業は資金調達が難しくなり、対応をせまられています。

3行要約
・投資家は社会的な責任を負う
・環境や社会に悪影響を及ぼす事業には投資できない
・企業は収益性だけでなく、社会的な貢献についても投資家にアピールが必要



資金調達をできなくなった石炭火力
2018年4月26日の日経新聞で、「日本生命保険は・・・一方で気候変動への影響を踏まえ、石炭火力発電所の建設プロジェクト向け融資について、新規停止を検討中と明らかにした。」と報道されました。そして、これと呼応する形で4月28日に同じく日経新聞から「Jパワー、石炭火力建て替え断念」という記事が出ています。

このように、投資家のESGに対する意識の向上が、実際に企業活動を変えるようになっています。石炭火力のCO2排出量は天然ガスの2倍にも上りますので、環境に責任を負う投資家は投資することができません。
発電によるCO2
出典:電力中央研究所、電源別のライフサイクルCO2排出量、2010年

社会に貢献できる企業だけが資金を得られる時代に
かつて、投資家は最も高い収益が見込まれるところに出資するのが当然だと考えられていました。しかし、これでは環境や社会に悪影響を与える活動を助長することになりかねません。金融界はリーマンショック時に政府の救済を受けていますので、金儲け一辺倒の姿勢では世の中の理解を得ることができません

そこで、社会的な責任の一環として、ESG投資が注目されるようになります。その投資によって世の中が良くなることが求められるようになったのです。

なので、社会に悪影響を与えるとされている産業は資金を得ることが難しくなりました、上で紹介した石炭火力だけではなく、タバコ・銃・武器などがESG投資の対象外となっています。

逆に、人材育成に積極的であるとか、貧困の解決を目指しているとか、マイノリティー(女性・少数民族・LGBT・障碍者など)に配慮しているといった企業は資金を調達しやすくなりました。

新しい時代においては、収益性だけでなくその事業がどのように社会に貢献するのかまで投資家に説明することが必要になりました。


長期では金利と株価は正の相関
「金利と株価のフクザツな関係」の第2回です。前回の短期の関係に続いて、今回は長期的な関係について考察します。

3行要約
・長期では金利と株価は正の相関を持つ
・実際には、景気を共通の要因とする疑似相関
・景気が良くなると金利も上がるが、業績も改善するので株価は上がる


長期では金利と株価は正の相関
まずはじめに、金利と株価の変動を確認しておきましょう。
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「私の相場観(http://blog.livedoor.jp/business_cycle/archives/52047160.html)」からお借りした画像ですが、2000年あたりから金利と米国株(S&P500)が正の相関を持つようになっていることが分かります。

理論的には金利と株価は逆相関になるという話を前回書きましたし、現実に利上げは株価を押し下げます。何らかの理由により、長期と短期では関係性が逆転するようです。

長期の関係は「疑似相関」だった
結論から言うと、長期の関係は景気を共通の要因とする「疑似相関」です。景気がいいときは資金需要が増加するとともにインフレ期待も高まるので、金利が上昇します。それと同時に、景気が上向いてくれば企業の利益水準も高まりまり、当然、株価を押し上げます。

したがって、金利と株価の本当の関係は下図のようになっていると考えられます。
金利と株価
景気が良くなれば金利が上がりますので、これ自体は株価の重荷になります。しかし、好景気による業績の改善はそれを上回る力で株価を押し上げるので、トータルで株価は上昇するわけです。

金利と株価については、教科書的な記述と実際の関係は一見矛盾していますが、図に書いてみるとすっきりと理解することができました。

より詳細に見ていくと、金利の転換期(利上げや利下げの開始直後)は金利と株価が逆の相関になりやすいなど、相場のクセを発見することができますが、この点については改めて記事にしたいと思います。


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